第13章 空
「空いてる時間は何してるの」
『予習とか、課題とか、予習とか』
「…笑 やっぱ予習は大事なんですね」
『そうね、フレンチは復習だけでいけるけど、ほらみんなにとって初めて前提で進むから。
あとの二つはディスカッションもあるし、予習は大事ですね。
単語の意味わからないなんて言ってられない』
「そうですか…」
『…蛍くん?』
「…なんかしみじみ違う世界にいるんだなって、感じちゃいました」
『…なんで? 違う世界なんてことないよ。 同じ世界にいるよ。
わたしは蛍くんのいる世界がわたしのいる世界と一緒だって思うと嬉しいし頑張れるんだよ』
「………」
『だから、そんな寂しいこと言わないで?』
今に集中すれば良いと思っていた。今でも思ってる。
電話をすると決めて、昨晩机に向かっていた時間も、
今朝の自主練も、実際とてもいい集中力で過ごせた。
それでも時折、否応なくメンタルが崩れる時がある。
なんだろう、普段はやり過ごせることが、いきなり重さを持ってのしかかるというか。
日本の大学へ行っていたって、どこにいたって、
穂波さんは穂波さんらしく日々いそがしく、
でもいそがしさは表に見せずあの様子で過ごすのだろう。
ここでもし、英語が早くてついていけないよ〜だとか、
英語がわからなくてもできる教科をとったよ、だとか。
そういう感じだったらそれでも身近に感じたかもしれない。
でもアメリカの大学でなんてこともなく本当に普通に生活を始めている穂波さんに、
疎外感ではないけれど、高校生の僕には到底追いつけない場所に行ってしまったような感じがした。
「うん、そうだね。ごめん、ちょっと弱気になった」
『ん、弱気もいいの。 弱いところも見せていいよ、必要ならいくらでも。
でもわたしと蛍くんのいるフィールドは違うかもしれないけど、世界は一緒だよ』
「…あー、もう。 すきです、穂波さん」
『ん、わたしも蛍くんのことすきだよ』
孤爪さんへの好きとは違うことくらいもう、分かりきったこと。
それでも、その言葉は、しっかりと威力を持ち続ける。
ずるずると引きずってた厄介極まりないおセンチモードがすっと引いていく。