第13章 空
「matane〜、穂波〜♡」
電話の向こうで誰かが穂波さんにまたね、と言うのが聞こえた。
日本人じゃないのは明白な、発音で。男の声がした。
「…誰?」
『ん?さっきの授業で一緒になる子。
2年生なんだけど、取りたい講義を受けるにはその前に履修しとかないといけないのがあって〜って』
「………」
『…蛍くん?』
馬鹿馬鹿しいにも程があるけど、
その顔どころか何一つ知らない声だけ聞いたそいつに、嫉妬をした。
毎週顔を合わせ、すぐそばで話せる。
僕は未だそんな経験を好きな人としたことがない。
それを、僕より後で知り合ったそいつがするなんて。
「…なんでもない。毎日一緒に授業受けてるの?」
『ううん?週3回、ARTのクラスの時だけだよ』
「ねぇ僕全然わからないんだけど、アートとかダンスとかとってるの?
海洋学に興味があるって言ってなかった?」
『あ、うん?それは一応今のところ決まりで。専攻すると思う。
でもダブルメジャーかマイナーメジャーかわからないけど、視野に入れてて。
いろいろつついてみようと思って。
秋学期はアート寄りのその二つとって、あとは海洋学の必修科目とかをとってるよ』
「…なるほど?」
『数学10Aと、化学1A、フランス語、モダンダンス初歩テクニック、ドローイング基礎』
「………」
『って言えば納得するかな?笑』
「笑ってるでしょ」
『んー? 蛍くんかわいいなって思って、ちょっとにやけちゃった』
「各曜日の何時にどのクラスがあるのか知りたいくらい……欲が出てくる」
『…笑 いいよ、なんの参考になるかわからないけど言おうか?笑』
僕のこの、ストーカーと取られてもおかしくないような把握したい欲に、
穂波さんは微塵も嫌じゃないと言うように大体の1週間のスケジュールを話し出した。
そして僕は、当たり前のようにペンをとってノートに書き起こしていた。