第13章 空
ー月島sideー
穂波さんが渡米してから電話をするのはこれが3回目だ。
前回は僕の誕生日。
1度目はまだ大学が始まる前だった。
──「穂波さんからいつもする匂いって髪の毛から?」
嗅覚と記憶の繋がりは本当にすごい。
それは言葉で説明せずとも多くの人が頷くだろう。
『…んー? きっとそうかな、ヘアオイル』
「そのヘアオイルのメーカーとか品番教えてほしいんだけど」
『……』
「…ちょっと待って僕、変態っぽい?」
『あははっ! 変態蛍くん会いたーい♡』
「……」
『…どうしようかなぁ。 メーカー、変態蛍くんに教えても悪用しないかなぁ』
「…ちょっと。 試合前とか受験の時とか、穂波さんを側に置いておきたいっていうか。
いつでも感じられるようにしておきたい。 そんなのなくても、いつも思い出すんだけど。
……ってやっぱちょっと、やばいやつっぽいな、説明すると余計に」
『…ふふっ あれはね、イランイランとゼラニウムの香りだよ』
「花の名前? 精油とか? メーカー教えてよ」
『そうそう、その香りのオイル。 グレープシードオイルが主成分だったかな?
…そういえばこの間ね、牛島若利くんに会ったよ……』
上手くはぐらかされたな、と思いつつ、
そんなことはどうでも良いから、とはいえない話題を切り出してきてそのまま聞きそびれた。
それをこんな風に贈ってくるとかずるいんですけど。
そんな穂波さんが今、電話越しにでももじもじしてるのがわかる声で、僕の名前を呼んだ。
「なんですか」
『…一旦プレゼントのことは置いておいて、違う話しない?』
「なんでですか?」
『なんか… 隠れたい気分』
「え?」
『わたし今絶対、変なやつなんだもん。もじもじにやにや電話してるやつ』
「あはは、まぁ穂波さんはナチュラルにヤバいやつだから。大丈夫でしょ。
ヘアオイルは、ストックだったんじゃないの? それを僕にくれたの?」
『…ん、気に入って使ってて、何本か持ってきたのがあるから、さ」
「…そっか。 ありがとう。 じゃあ、話題を変えようかな。
もじもじしてるのが手に取るようにわかってHRどころじゃないから」