第3章 くじら
「…ん。なんか変なこといってごめん」
『え? ううん、わたしこそごめんね』
「え、あ、いや、ちょっと今日穂波謝りすぎ。もう謝らないで」
『…うん。あの、ね、研磨くん』
「…ん?」
『わたしね、研磨くんのこと大好き』
「…ん、おれも」
『それからね、本当にいつもありがとう』
「…ん」
りんごジュースの瓶を回収するとこに入れて、銭湯を後にする。
手を繋いで、ゆっくり歩く。
「穂波、なんか狼狽えてたのに」
『…?』
「すぱって気持ちが切り替わってて」
『………』
「強いなって思った。穂波はやっぱり、強くて綺麗だ」
『お風呂でね、さっき研磨くんが言ってくれたこと、思い出してた。噛みしめてた』
「…?」
『自分を窮屈なとこにもってかないで、とか… いろいろ。
そしたらそっか、そうだなぁってなった』
「…そっか、そうだなぁってなった、か」
『それに研磨くんがさっきちょっとぐるぐるしたのは、
それもわたしのこと考えてくれてなんだもんなって思った』
「………」
『わたしが窮屈なとこにいくと、研磨くんのとこにも窮屈さが行っちゃうんだなって』
「………」
『研磨くんはわたしにのびのびしてて、っていうけど
わたしも研磨くんにのびのびしててほしい』
「いやおれは…」
『のびのびって別に、屋外に出ることとか、身体を動かすこととか、
人と話すことって決まってるわけじゃないでしょ。
家で好きに過ごすのも、人と話さないのも、全部のびのび。
その人がその人らしくいるなら、それがのびのび、でしょ?』
「………」
『だからそうだな…いや、だからって必要のないことをする必要はないし、反省は大事だし、
やっぱり自分がキスしちゃったことを肯定はできないんだけど、
でもそれでもなんだろう… さっき狼狽えちゃってたときのわたしは、んーと…』
「行き過ぎてた?それから受け取るのにストッパーかけてた?」
『…ん?』
「sharing what you can, nothing more, nothing lessでしょ?
おれには上手く言い換えれないけど」
『………』
それ以上でも、それ以下でもなく。
前、穂波が言ってた。