第12章 Hi!
お互いに次の言葉は続けないまま、
もう一度唇を重ねた。
さっきより少しねっとりと、
でもくっついたり離れたりはしないで
長くお互いにそっと吸い付くように。
駆け引きなんかなくて。
押し合い引き合いなんかなくて。
ただ、味わうように。
『…研磨くん』
「ん?」
『息が… 苦しい』
「え?」
『胸が苦しい。 きゅうううってする』
「え、大丈夫? 横になる?」
『違うそういうんじゃない』
そう言って穂波はおれの手をとって胸元にあてがった。
どっどっどっどって、鼓動が、振動が伝わる。
『初めてじゃないのに初めてみたい。
はじめての時以上に初めてみたい。
どうしよう、なんか… 怖い』
「………」
演技なんかじゃない、素で、潤んだ瞳で上目遣いで見上げて、
すごいかわいいことを言ってきた。
やっぱおれ、おかしいのかもしれない。
怖いって言葉に、その揺れる瞳に、ぞくぞくってした。
怖い思いなんて、させたくないって思うのに。
そっか怖いんだ。
じゃあこれから過ごす時間、安心させるのもその逆も、おれ次第ってこと?
それってなんかすごい……
「…ん、ダイジョーブ。 んと」
優しくするから、とか言えなかった。
「…キスしてもいい?」
我ながらすごい間抜けだとも思ったし、
関係性が関係性なら、結構ダメなやつが持ってく流れだとも思った。
怖がってる子に、なんか… 適当に相槌打ちながら結局自分の欲求を満たそうとしてる感じ。
時間をかける気なんてなくて、自分勝手な感じ。
『…うん』
「怖くない?」
『怖いの、何でだろう怖いの。
でも怖いのは研磨くんじゃないし、それに……』
「………」
『いやじゃない、いやなわけないでしょ、だって研磨くんだもん……
すごく気持ちいい、ほわほわする。でもなんでだかいつもみたいに、できない』
だめだ、かわいい。
何一つ事実じゃないし、ふわっとしてるのにも程があるけど、
なんか今からおれが、穂波の初めてをもらう感じがする。