第12章 Hi!
ー穂波sideー
「…もーらい」
唇のかたちも。
顔立ちも、声も。
そっくりなのに。
やっぱり全然違う。
舌とかいれない、でも触れるだけとも違うねっとりと吸い付くようなキスで、
侑くんはわたしの唇を奪った。
ゆっくりと唇が離れて、
それからまっすぐとその瞳がわたしを捉える。
一つも冗談なんて混じってない、真剣な瞳。
その瞳で見つめたまま、もーらいって小さな声で、そう言った。
あまりにそれが、甘酸っぱくて、眩しくて。
言葉も手も何も、出なかった。
夏の縁側に風が抜けて。
初々しいというには、全てが手慣れていたけれど、
それでもどこか、何かが初々しく、始まりとすら捉えれるような。
初めてのキス、として全てが完璧だった。
「…はー、もっぺん寝たい。このまま」
『………』
全て計算なのか、全てじゃないけどいくつかは、なのか。
わからないけど、侑くんは何事もなかったかのようにまたわたしの膝に頭を乗せた。
それからぐりぐりぐり〜って動物が甘えるみたいに
頭を数回擦り付けてから、身体の向きを変えた。
「…あ、布団しまったんや」
『侑くん、すやすや可愛い顔で寝てた』
「…ふはっ かわいかった? 俺に惚れた?」
『…ふふ 惚れた惚れた』
「なんそれ軽っ」
『今日の夜はBBQだって、知ってた?』
「ぉん、ぼっくんが騒いどった」
『あはは、想像するのが容易い』
「…そんならそろそろここ人来るんか」
『そうだねぇ』
「別に、見られてもええし、誰が来てもええんやけど」
『……』
そこまで言って侑くんはよいしょ、と身体を起こすと、また話を続けた。
「誰も見てないってのもまた、なんか、ええやんな。完全犯罪、二人だけの秘密」
『………』
「俺は研磨くんちゃうし、サムとも違う」
『………』
「俺の持っとるもん全部使って穂波ちゃんに侵入してくで」
『侵入って 笑』
「侵入侵入!入り込むみたいな意味やろ? あ、辞書あるやん」
わたしの右手にかろうじて収まっていた辞書をそっと取ると、
侑くんはし、しん…と言いながら辞書を引き始めた。