第12章 Hi!
・
・
・
「辞書は?」
『ん、持ってきたよ。引いてもいい?』
「ぉん、お願いしまーす」
『工芸品。工芸によって制作された作品。漆器・陶磁器・染織品・木工品など』
「………」
『…工芸。実用性と美的価値とを兼ね備えた工作物を作ること。また、その作品。
一般に陶芸・漆芸・染織など小規模なものをいい、建築は含まない』
「…かっこええな」
実用性と美的価値を兼ね備えたって、かっこええ。
『ふふ、侑くんみたいだね』
「…?」
どーいう意味?いうて聞きたいけど、
こっちをチラッと見てクスッと笑って、
また辞書に目を戻して薄い紙をパラパラし始めた穂波ちゃんのこと見とったらタイミング失った。
『民芸。一般民衆の生活の中から生まれた、素朴で郷土色の強い実用的な工芸。民衆的工芸。
大正末期、日常生活器具類に美的な価値を見出そうと、いわゆる民芸運動を興した柳宗悦 の造語』
「………」
『柳宗悦さんって、包丁とかザルとかの… 柳宗理さんのお父さん?』
「………」
『柳宗悦さんは辞書に載ってるのかな……』
とかぶつぶつ言って、俺のことはお構いなしにどんどん、
あっちにこっちにぱらぱらぱらぱらと辞書で、遊んどる。
それをまぁ、しばらく特等席から眺めとった。
目、キラキラさせて。
ちっさい字を目で追ってるときは、ちょっとだけ唇とんがらせるんやな。とか。
「なぁ穂波ちゃん」
『ん? なぁに?』
肘立てて身体持ち上げて。
左手は穂波ちゃんの首の後ろに伸ばして。
くって、顔近づけてな。
長くてねっとりした、甘ーいキスをくれてやった。