第12章 Hi!
ー治sideー
あかん、マジで今日、脈アリどころやない。
俺に触ってほしいってなってるのがわかる。
後先考えられへんやつ。
これは…今俺が行ったらマジで……
『へ?』
「そんな残念そうな顔で見んとって?」
持ったままやった木彫りのたぬきを唇に当てたった。
ちゃんと顔を向けて。
「触りたいしチューしたいけど、そんな顔されたら気安くできへんわ」
『え、どんな顔?』
「…知らんけど」
言い訳なんかひとつもできへん事実が起きてまうやろ。
それ自体は別にええねん。
研磨くんに宣戦布告もしとるし、受理されとるし、
なんなら研磨くんはそれを楽しみにしてるくらいや。
けど今そうなって、穂波ちゃん渡米して、ってなんか…
ぐだぐだになってまいそう。
仮にもし、はい俺のこと好きになりました。もう研磨くんとは一緒におれません。って言うたら、
そっか、じゃあ仕方ないねってあっさり別れれると思うねん。
別れたとしても俺と穂波ちゃんも遠距離になるわけやし、
穂波ちゃんがたとえ俺を選んでくれたとしても。
そんなしょっぱなから幸せ100%になるわけないやんな。
今現に研磨くんのこと大好きなんやから。
そんな状態で遠距離て、あかんやんな。
…あかんねん、ん? あかんことない?
『…んふっ はぁードキドキした。一線越えちゃうって思った』
「そんなケロッとした声でなかなか大胆なこと言うやん」
『たぬきだったぁ 狐と狸に化かされた〜』
「なんそれ」
『んー? なんでもないよ』
「なぁ、穂波ちゃん、この部屋にあるもんな、正直一個一個質問したいんやって」
『ふふっ 嬉しい』
「この机はどないしたん? 一枚板でかっこええな」
『これはおじいちゃんメイド。千葉のおじいちゃんが作ったの、ずっと実家の自分の部屋で使ってたやつだよ』
「じゃああれも?」
『うん、そうそう』
「え、じゃあこのたぬきは?」
『あ、それはね…』
そうやって、またさっきまでの色を孕んだ時間が煙みたいにどっかいって。
心地いい、他愛無い、でもこれさえ前戯にも思えるような会話をしばらく続けた。