第12章 Hi!
治くんは2、3歩こちらに向かってきて足を止め、
「その革のクッション座ってもええ?」
と言った。
『へ?』
「へ?やなくて」
『革?』
「むっちゃかっこいいやん、これ、なんなん?どっかの土産?」
『…あ、プフ。 ん、それね、えー…っと、なんだっけ?』
認めてはいけないけど、認めざるを得ない。
先ほどわたしが動物的に、本能的に治くんに期待したことと。
今治くんが言葉にしたことが、違いすぎて、思考が一旦停止してしまった。
「なんやっけね? なんか考え事でもしとった? エロいこととか?」
『そ… そそそそそんな、治くんとエッチなことしたいなんて考えてないもん』
「……それはご丁寧にどーも。 なんやっけプフ? どこのやつなん? 座ってええの?」
『………』
顔が、首が、カーっと赤くなっていった。
治くんは エロいこと としか言ってないのに、
わたしはそれをわざわざ 治くんとエッチなことしたい、 と言い換えた。
そこに触れられても恥ずかしいけど、
治くんはわかっていながらスルーする。
それはそれで恥ずかしくて、恥ずかしくて、穴があったら入りたいというやつで。
こんな時は深呼吸しかない。
大きく息を吸って。
吐いて。
『…っふぅ、もちろん座ってくださいな』
「やったー、ほんならお邪魔します〜」
その、お邪魔します、の言葉でわかったのは、
それまで治くんは扉の近くに留まっていたということ。
そして今は、わたしの言葉を受けてプフのある部屋の奥の方へと進んでいく。
言うなれば、本当に玄関先だけで済ませようと思っていたけど、
家主の了承も得たし部屋に入って少し休むことにした、 みたいな感じで。