第12章 Hi!
ー治sideー
「これは殺風景とは言わんやろ」
アイボリーベースの落ち着いた印象の敷物。ギャッベやろか。
無垢な一枚板でできたローテーブル。
その上にはMacBook、メガネケース、筆箱、小さいノート。
ぽんぽんっとふたつ置かれた、ええ感じの飴色になった革のクッション。
押入れの扉は外して生成りの生地でカーテンがされとる。
窓際には天井からなんか、透明なボールみたいなの吊るされとる。
普通に整った部屋や。
扉開けて入った直ぐ右のとこには、
天然木で作られた2段のカラーボックスみたいなのがふたつがさねで置いてあって。
そこの上に、木彫りのたぬきがおった。
「なんやこいつ。どちゃくそかわいい」
『ん?』
「目が合うた、このたぬき」
『あ、ねー!かわいいよね。 いっぱい愛でていいよ♡』
「愛でてって、」
いうても、とか思いつつ。
この、滑らかで木なのにやわからそうで、
でもあくまでも本物寄り、リアリティ重視な感じ、
でもあの鮭咥えた熊みたいなんとはちゃう、
でもデフォルメされた要素もない、
でもかわいい。
なんやでもでもばっか言うとるけど、
とにかく触られずにはおれんこのたぬきを手のひらに置いて、
空いた手ですりすり撫でながら穂波ちゃんを眺める。
さっきまで廊下であんなに躊躇しとったくせに。
決めてしまえばことは流れてくと言わんばかりにもう、通常運転。
警戒心ゼロの、いつもの様子で押入れんとこのカーテン開けて国語辞典を取り出した。
「なぁ穂波ちゃん」
『んー?』
「欲が出てきてもーた」
『ん?』
「部屋見せてってそれだけやったんやけど」
しゃがんでたぬき愛でとったんやけど、
立ち上がってそう言うと、穂波ちゃんは無意識にか小さく後ずさった。
あかん。
唆るなぁ、それ。