第12章 Hi!
ー穂波sideー
朗らかに笑いかけることの多かった治くんが。
もしくは美味しいものに舌舐めずりするように色っぽい目をしてこちらを見ることもあった治くんが。
きーーーんって耳鳴りが聞こえそうなくらい冷たくて、
それから色っぽい目をして、
いつも一緒に寝てるのかと聞いてきた。
『え? あ、うん。 いつも、うん、そうなんだけど…』
目のやり場に困る。
そしてどう答えたらいいのか、わからない。
なんだろう、狐に追い込まれたうさぎになったような心持ちだった。
治くん、どうしてこんな表情いきなり……
「えーなー!そんならここは寝室とちゃうんやろ?
普段からエロいことしてるベッドもないし、ええやん?
好きな子の部屋の前まで来たら、中を見るくらいしたいわ」
その切り替えが怖いほどにすっと空気が変わって、
治くんは穏やかで、それからいつもより幾分か明るい口調でそう言った。
顔をくしゃっと綻ばせて。
『ん、でもほんと、辞書取りに来ただけでそれに本当何もないことだけは言っておくね。
好きな子の部屋がこんな殺風景で逆に申し訳ないよ』
「ぷっは…笑 好きな子のって自分で言うてるんかわいいな。
そうそう、穂波ちゃんは俺の好きな子。そうそう変わることとちゃうから、しっかり覚えとってな」
『………』
「…で、開けへんの? 焦らされると余計に昂ってくるんやけど」
なんで自分の部屋の扉を開ける事にこんなに躊躇してるんだろう。
でも思えば、実家でもオープンな家だったのもあって逆に、
自分の部屋に招き入れた男の子って数えるほどだ。
研磨くん、カズくん、遊児。
……それくらいしかいない。
たくさんの人が来る家だったけど、ゆったりと過ごせるスペースはあったし、
大人たちも皆寛大で且つそれぞれに楽しんでいたので、
わざわざ自分の部屋に入って一緒に過ごすってことはなかった。
二人きりになりたい、研磨くんとの場合と。
どこか弟のようなカズくんの場合と。
あとは、ばーん!って扉を開けて入ってくる遊児の場合を除いて。