第12章 Hi!
ー治sideー
「治くん、お腹どんな?」
「すんません、まだ食えます」
「ははっ その気持ちいい食べっぷりに加えて遠慮なくていいわー、ちょっと待ってて。
…あ、でもさ侑くんの話ばっかりになっちゃってるけど、治くんは送迎会いいことなかったの?」
そう言ってケンさんが余ったタコと空いた皿を持ってキッチンに戻ってく。
送迎会、ええことだらけやった。
まずあの場がマジで楽しかった。
気の良い人らばっかやったし。
メシ食うんも作るんも食ってもらうんも楽しかった。
──夕飯は庭でBBQにしよかって黒尾さんと福永くんと話しとった。
仕込みたいもんもあるし、買い出し何人かで行ってこよかーとか。
あと15分くらいしたら車出すいうて黒尾さんが言って、
その前にトイレ行っとこーってトイレ行って廊下歩いとったら穂波ちゃんに遭遇した。
「あ、穂波ちゃん」
『治くん!休めてる?動きっぱなしじゃない?』
「ぉん、大丈夫やで。穂波ちゃんは? 主役が一人で何してんの?」
『ちょっとね、気になる事があって辞書を取りに来たの』
春高で初めて会うた日の事がぶわぁぁって思い起こされた。
「漢字辞典?」
『え? あ、ふふっ。 違うよ、今日は国語辞典』
「ふーん、で、ここは?」
『あ、そっか、まだ案内ができてなくて。トイレとか場所わかる?不自由ない?』
「ぉん。 で、ここは?」
『ここはわたしの部屋だ、けど?』
「…」
キャンプに行った時にあんなことあったのに、
相変わらずぜんっぜん警戒心のカケラもなかった穂波ちゃんの目がちょっと泳いだ。
ドアにかけた手がちっとも動かん。
「なぁ穂波ちゃん」
『…う、ん?』
「ちょっとだけ、部屋入れて」
『え、でも元々ひとまず数ヶ月の暮らしだったから、殺風景だよ?寝室は他にあるし…』
「いつも一緒に寝てんの?」
…なんかこう、生々しいわ。
生々しく、暮らしってもんが、日常ってもんが、刺さってくるいうか。
やっぱ、非日常と日常には雲泥の差があるんやって。
それがどんなに日常の延長みたいに穏やかな時間でも、
継続されてへんのとされてるもんは全然、ちゃう。