第12章 Hi!
ー研磨sideー
『…それでね、そう、アーバインに行ったのなんて初めてだったからさ、
何か美味しいものあるかなぁって、歩いてたの』
「うん」
『そしたら、閉店前のベーカリーで若利くんに会ったの』
「…若利クン」
何かと遭遇するよな、とは思ってるけど、規模。
渡米して早々になんていうか… ウシワカに会う?
しかもなんか、ほんと、普通に。
日常の延長で、みたいな感じなのが… 面白いなって思う。
『それでね、話してたらね、なんとなんと!』
「…笑 ん、」
でもこういう、じゃじゃーんみたいな、
もったいぶった話し方をわざとしたりもする。
それが… かわいくって、あの表情してるのは想像できて、
表情だけじゃなくって、腕の動き、指のライン、髪のなびき方…
全部が今目の前にあるみたい。
あの、ヘアオイルの匂いまでしてくる気がする。
『空井さん… 空井祟さんっていうんだけどね、そのわたしが会いに行った日本人のトレーナーさん。
その方がね、若利くんのお父さんだったの』
「…へぇ」
離婚してるってことかな。
だとしても、婿養子…ってやつか。
苗字が変わるのとかどうなんだろ、ってたまに考える。
穂波に出会ってから。
当たり前のように女の人が変えてるけど、とか。
なんか一緒の必要とかあるの?とも思うし、
でも穂波の苗字が孤爪になるのを想像すると正直なところ嬉しい。
でも、これってちゃんと話し合うことだよな、とか。
なんだろ、おれも変えるっていう選択肢がオプションとしてではなくて、
フラットな状態で並んでるべきだと思うっていうか。
その状態から、例えば穂波にはアキくんっていうお兄ちゃんがいるとか、
おれが一人っ子だとかそういう項目を加味してく。
…でもそもそも、兄弟がどうとかそれすらもいったい何?ってなったり。
まぁいいや。
ウシワカがなんでどうしてとかそういう詳しいとこまで穂波はベラベラ喋らない。
空井さんって人がお父さんなのは別に秘密とかじゃなかったから言ったんだと思う。
バレーチームでトレーナーをしてる父親に会いに来た、
それは十分な滞在な理由だし、おれも別にそれ以上興味ない。
けど…