第3章 くじら
──「 俺の好きな人はね、そうだな… 一緒にいても、いなくても力をくれる。
そういう、パワーを持った人。
木兎さんは一緒にプレーしてなくても、
見てるだけの人たちにも何かしらのパワーや印象を与える人だと思うんだけど。
それと少し、似てるかな。 …まぁ、女性だし全然違うのだけれど」
…って。
そしてそしてそれから…
── 「…可愛らしくて、綺麗で、花のようだなと思う時もある。
暖かくて、陽だまりみたいだなとも思うし。
すごくシンプルな子なんだけど、どこか掴めなくて儚くて、風のように感じることもある。
だから、いろいろな時に思い出すよ。その子のこと」
この言葉が本当に印象的で。
京治くんとその好きな人について思いを馳せるたびに、思い出した。
それからそれを聞いてわたしは
──『…わぁ………会ってみたいなぁ。もし、いつか機会があったら、是非、紹介してね』
そう言ったはず。
そして京治くんはそれに対して…
「…紹介してね、って言われた時に、いつかって答えた」
『………』
「今が、その時かな」
『………』
「…もう一度言うね」
『………』
「穂波ちゃんのことが好きです」
『………』
「それだけだよ、伝えたいことは。特に続けて言いたいことは、ない」
『…ん。 京治くん、ありがとう。 本当に、嬉しい…です』
京治くんから、好きな人への想いとか聞いていたし、
その話から見える京治くんの眼差しみたいなのも感じていたから、
なんだか、すごく不思議な感じがする。
「うん。 …俺の話はこれで。 これでもう、穂波ちゃんが泣く必要はない……
って、えっ、ちょっとどうして……」
今まで耳にしてきた京治くんのことば、
目にしてきた京治くんの姿、
触れてきた京治くんのいろいろ。
前からずっとそれは尊いものだったけど、
今、さらにその温度を増して、
そして柔らかな感触を増してわたしに押し寄せて来て。
ありがたくて、幸せで、泣けてきた。