第3章 くじら
『あぁ… もう何話してるのかわかんなくなってきちゃった…
あのね、ほんとにね、京治くんの恋をね、邪魔しようとか思ってないの。
ほんとにほんとに… なのに、わたし、ごめんね……』
堰を切ったように穂波ちゃんの目から涙がこぼれ落ちる。
手の甲で拭っても拭っても溢れてきて
穂波ちゃんはもう何も喋らなくなった。
鼻を啜りながら、時折ひっくひっくと肩を震わせながら泣いてる。
自分のこれからのことではなく、ただ俺のことを想って、泣いている。
俺の目の前で。
ーこの子を守りたい。
そう思ったんだ、森然で。またさっきとは別の日に。
進路のことで少し悩んでいるというか、考えごとをしている旨を話してくれて、
それからすこし弱ったように微笑んだ彼女を見て、俺はそう思った。
直接的でなくてもいい、ただ、この子を守れたら、と。
なのに何泣かせてんだ。
穂波ちゃんは俺の “好きな人への想い” だとか
そういうものについて考えを巡らせて、泣いている。
それを、解消するのなんて、極簡単な話だ。
いつもより明るい色になった、
それでも艶っぽく綺麗な髪の毛をそっと撫でる。
頭を、そっと。
「…お茶、注いでいいかな?」
こくこくと頷く。
穂波ちゃんの湯飲みに残りのお茶を注いで、差し出す。
「はい。 …穂波ちゃん、俺も話したいことがあるんだけどいいかな?」
こくこくとまたも、頷く。
「できたら、目を見て伝えたいから、少し落ち着くまで…
そうだな、お茶をのんでおく」
待ってる、というのは気が引けて、
よくわからない宣言をしてしまった。
でもまぁ、事実、お茶を飲むわけだし。
『…ん、わたしもお茶飲む』
そう言って穂波ちゃんは両手で湯のみを包み、
もう熱くはない、でもまだちゃんと温かいお茶を飲む。