第3章 くじら
ー赤葦sideー
『…彼氏がいるひとを好きでいることは全然辛くないって。
力をもらってる、出会えて幸せだって』
あぁ、よく覚えてる。
恋人がいる人を好きになるってこと自体どう思うかとか、
迷惑じゃないか、とかそういうことを聞いた。
俺が好きな人は君だよ、ということは言わずに遠回しに本人から聞いた。
──『…想ってもらえるのはいつだって嬉しいよ。その気持ちは。絶対にそう。
そりゃその気持ちの出し方が、その子やその子の彼氏を傷つけるものだったらダメだろうけど…
純粋に好きっていう気持ちは、どうしようもないし、京治くんが辛くないならいいと思うな。
京治くんが辛いなら、 …どうしたらいいんだろう』
「辛くないよ。全然、辛くない。力をもらってる。出会えて幸せだな、と心から思う」
『…そっか。それならよかった。幸せものだ、その子。
こんな素敵でかっこよくて優しい人にそんな風に想ってもらえて』
「…本当にそう思う?」
『うん、そう思うよ、心から』
「…それなら、俺も嬉しい」
…そんな会話をした。
「うん。今もずっとその気持ちは変わらないよ」
『本当に素敵だなぁ、って。せめて京治くんの想いがその子に伝わるといいなぁって思ってた』
「………」
『いろんな場合があるけど、京治くんの想いは絶対に迷惑だなんてことないと思うの。
あの、さ… 後から思ったの。
七尾旅人さんの星に願いをは、まるで京治くんが好きな人を想うみたいな曲だなって』
穂波ちゃんと、作家の〇〇さんと一緒に食事をした時、
レストランであった弾き語りのライブ。
一番、その曲が好きだったと、うっとりとした顔で言っていた。
いつか子どもに、子守唄として歌いたい、とも。