第11章 ラングラー
ー穂波sideー
ラングラーは後部座席が倒せる。
そして専用のエアマットレスが販売されてて、お父さんも持ってて。
だから、実家で車をピックアップする時にお父さんとセットして
その上に荷物置いて、千葉までやってきた。
志田下の波は、なかなか難しいし、最初から他のスポットに来ようと思ったんだけど。
研磨くんが、しばらく来れないんだし、乗りたい波に乗ったら、って言ってくれて。
お言葉に甘えてお昼過ぎから志田下で過ごした。日が暮れるまで。
研磨くんには流木と布で簡易日陰を作って、車のキーももちろん渡して。
でも研磨くんは、べたりとした潮風も、砂がまとわりつくのも、熱い日差しも、
思ったより嫌がらずに、そこにいた。
途中、大きなパラソルを持ってきた友達の彼女によって誂えられた日陰にも
ちょこんとおさまって、そこにいた。
研磨くんが何を思ってたかはわからない。
研磨くんが海に来て、同じ過ごし方ができなくても。
例え、車でゲームしてる… って選択になったとしても。
研磨くんと海に来たいってずっと思ってた。
だから、ビーチにずっといる研磨くんを遠目から眺めるのは。
そんな研磨くんの横に、時折戻ってお茶を飲んだりフルーツを突いたりするのは。
とにかく、幸せ、としか形容できない時間だった。
そのあとここいらの友達と
おじいちゃんのお店の(今はお父さんのだけど)お庭でバーベキューをして
海の幸をたらふく食べて、そうしておじいちゃん家には泊まらずに。
ここに来た。
わたしが志田下の海に入れるようになったのは2、3年前で
その前はその近辺のスポットに入ってた。
そのうちの一つ。
ここいらはもうどこの海岸もサーフスポットで、シーズンは人がいっぱいだけど。
サーファーだけじゃなくて海水浴の人もいっぱいだけど。
ここは、その中では穴場と呼べるスポット。
とはいえ、もう夜だしサーフィンしないけど
夜の海で研磨くんと過ごしたかったんだ。
そして研磨くんは、いいね、それしよ。って言ってくれて。
この、マットを装備したラングラーでの車中泊が決まったのだ。
そしてマットの上に乗せてた荷物を前のシートや外に移動させて。
マットにゴロンと寝転がって、研磨くんは
「わ、なにこれ。想像以上に快適」
と満足そうに呟いた。