第10章 梅と
及川さんのバレーは見たことないし
及川さんに会ったのも本当束の間のことだった。
岩ちゃん、と呼ばれていた素敵な人が首根っこを掴んで連れていったから。
そしてわたしは山口くんと遭遇して、って。
本当に束の間の出来事だった。
自己紹介をして、そして及川さんは
「穂波ちゃん!話もまだあまりできてないし、
彼氏持ちにいきなり連絡先聞くなんてのは俺のやり方じゃないからなぁ。
また会えたら声かけるね!その時はお茶でもしよう」
そう言った。
もし次会えるようなことがあったらお茶をしよう、
だなんてさらっと言える日本人の高校生ってわたしはあまり会ったことない。
背伸びしてなくって、ほんとさらっと。
ヨーロッパも似合うし、アメリカやオセアニアも似合うけど。
なんだろな、中南米が似合う。
みんながみんな陽気なわけじゃなくて。
なんか、いるんだよね、ああいう人。
甘いマスク、大人びた雰囲気と無邪気な子供っぽさ。
そして漂う色気、みたいなの。
別にそれは、国や地域関係なくいるけど… なんとなーく、中南米、しっくりくるなぁ。
いつかどこかで本当に、お茶できるかしら。
「穂波ならふらっと、どこかで遭遇しそうだけど。
それより、バレー続けてるのかとか気になるね」
『…あ、うん。 影山くんとの試合とか見てみたいし… 気になるよね』
「うん」
ぬるいお風呂はじっくりと浸かってるうちにどんどんと冷めて
出るに出られなくなる感じ。
夏真っ盛りだけど、上がると冷っととするだろうなというか。
「身体冷えちゃわない?」
『あ、そうだよね、そうだよね』
「穂波は色々健康的だけど、水に浸かることに慣れすぎてる」
『……』
「ちゃんと、あっためるときはあっためてね」
『ん、そだね』
研磨くんにそんな風に言われると。
より一層、改めて、自分の身体を慈しもう、尊もうと思える。
お風呂上がったら、お腹に温かいものを流し込もう。
もう寝る前だし…
「白湯、沸かしとく」
白湯にしよう、って思ったところで研磨くんがそう言って先に上がるねって素振りを見せる。
テレパシーなのかなんなのか、研磨くんってほんと、そういうとこある。