第3章 くじら
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『…わたしはもうちょっと後でお風呂に入ったほうがいいってことなのかな』
「…? ……あぁそっか、そうだね、穂波ちゃんの裸見たら夜眠れないって」
『………』
「………」
………。
「あっ、ごめんっ、そのっ……」
『へっ、ううんっ、こちらこそ、そのっ……』
なぜかお互いにお互いのいる方向へ一歩踏み出してしまい、
「…ッ」
『あだっ…』
身体が正面からぶつかってしまった。
京治くんの胸元あたりに思い切り顔をぶつける感じで。
極軽く跳ね返ったわたしの腰を京治くんの腕が支えてくれる
「ごめっ… 俺……」
『あっ えっ ありがとう。 …んーと、あっ、お茶飲む?』
「え?シンク綺麗にしたばかりなのに。 銭湯は? …あ、銭湯……」
『え?あ、んーと、そうだね、京治くんもまだお風呂入ってないもんね、じゃあ… ってあれ?』
お風呂で裸になるなんて普通なことで何もやましくないのに、
なぜか挙動不審が治まらなくなってしまってるわたし達。
京治くんはわたしの腰をぐっと抱き寄せたまま、
困惑した顔を浮かべてる。
いつもの冷静な表情が崩れて、顔をほんのり赤面させて眉を顰めるその様に、
なんてこと、胸がどきっとしてしまった。
京治くんとの時間はいつも、安心とか穏やかさが勝って、
こんなに魅力的な人なのになぜかあまりドキドキしない。
一度だけ、したかな。
…だから余計にこの、今の、どきっが
威力絶大で……
『…京治くん、こっち見て?』
…って、え?
どきどきがすごいから、離れようって思ったのに。
やっぱりどこか落ち着いてしまって、え?わたし今何て言った?
それからわたしの手はどうして京治くんの顔に伸ばされてるの?
「………」
困ったような表情のまま、京治くんの瞳がわたしを捉える。
…え、うそ、すっごい色っぽい。
いや、うそなわけない。何言ってるのわたし。こんな素敵な人を目の前にして。
…え?なに? ちょっと、頭の中ぐっちゃぐちゃ……
なのに身体がどんどん動いてく。
そして下腹部がキュッとする。