第3章 くじら
ー穂波sideー
ばこっ!
「あっ、すみませんっ… 動揺してしまって…」
のんちゃんがきゅうりを叩きそびれた大きな音にハッとする。
まな板をすりこぎで思い切り叩いちゃったみたい
『えっ あっ、のんちゃん手とか指とか大丈夫?』
「あっわたしは全然っ えっと、どうぞ、はいっ お話し続けてください…」
『えっ あっ…』
京治くんが私を見てるだけで幸せとな?
それは一体どういう…
…あ!
『そうだ私ね、食い意地が張ってるからさ、食べるとことか作るとことか、
見てて楽しいとか、そういうことよく言われる』
そういうことだな。うん。
「あ、うん。まぁ、近くはないけど、遠くもないかな。うん。
…っていうかこれは、スープの香り?すごくいい匂いだね」
『うん、スープの香りだよ。楽しみにしててね』
「うん、楽しみにしてる。その人参は何になるの?」
そうして京治くんとのんちゃんと喋ったりしながら仕込みを終わらせた。
仕込んだのは、参鶏湯、叩ききゅうりの辣油和え、ひじきの五目中華炒め。
さっき切っていた人参は、中華炒めに。
「で、では、私はここで!お疲れさまでした!」
シンク周りも綺麗にしたところでのんちゃんが言う。
『えっ 一緒に銭湯行こうよ〜』
「いやもう、私穂波先輩の裸なんて見てしまったら、今日寝られません!」
『ふぇっ?』
「コホンッ…」
のんちゃんがいきなりすごいこと言う。
京治くんもびっくりしたんだろう、小さく咳払いをしてた。
「あっちゃんとそう話してたんです!
だから、あっちゃんが銭湯一緒に行こうって言って待ってくれてますっ。
なので…すみません、消灯、お願いしてもよろしいでしょうか?」
『えっ、あっ、消灯については、うん、全然。
ていうか、あっちゃん待ってくれてるならうん、いかなきゃね!
のんちゃん、お疲れさま。 それからありがとう』
そう伝えると、ペコリと深くお辞儀をしてのんちゃんは先に調理室を出て行った。