第10章 梅と
「穂波にしか適用しないけど」
ぼそっとわたしにだけ聞こえるようにそう言って。
グラスに水を注いで研磨くんは椅子に腰掛ける。
カラフェに水を用意する前に、倫ちゃんにもグラス一杯のお水を手渡す。
「おれも喉乾いてたんだった」
「邪魔しちゃってごめんごめん」
「…まぁ、喉乾いてたら仕方ない」
「邪魔じゃないとかフォローしないんだ 笑」
「………」
研磨くんは言葉で取り繕ったりしない。
思ってもないことを言ったり、しない。
そんな研磨くんが大好きだけれど、
邪魔なんてしてないよ、とか言わない辺り、
たしかに掘り下げると可笑しいな。
『はい、倫ちゃん、お待たせしました』
「おーありがと。 梅ひっくり返すのは?」
『いいよ、わたしやっとく』
「いいよ、じゃないよ。これ持ってったらいっぺん庭行くわ」
『…あ、うん、ありがとう』
「…あ、でもそっか、今からお楽しみか。 じゃあ、ひっくり返すとき呼んでな」
『…倫ちゃん〜』
倫ちゃんはニヤって笑ってそう言うと、
背を向けてスタスタと戻っていった。