第10章 梅と
ー研磨sideー
『研磨くん、ご飯用意しても大丈夫?』
ノックの音がして、返事したらドアのとこからひょこって穂波が顔をのぞかせて。
おれの分も仕上げていいかってことかな、訊いてきた。
「…ん、ありがと。 すぐ行ける。 お願いします」
『ふふ、了解です。用意してるネ』
「あ、待って」
扉を閉めてあっちに戻ろうとした穂波を呼び止めて、
ヘッドホンを下ろして立ち上がって穂波のとこに向かう。
閉めかけた扉を開けて手首を握ってこっちにくいってして。
そのまま、キスを。
ちょっとすればいいかな、って思うんだけど。
一回でも満足なんだけど。
何回やっても足りないんだよね。
腰に腕を回して、もう一回。
穂波がおれの首に腕をかけてもう一回。
Tシャツの裾から手を入れてもう一回。
そのままホックまで手を動かしながらもういっか……
「穂波ちゃーん、カズくんがさ…… って、わっ ごめん!」
そのタイミングで元也クンが来た。
「…ん、良いよ別に。こっちこそごめん」
「いや、でも貴重な時間を邪魔しちゃって……」
元也くんはそれなりに焦ったのかよくわかんないこと言ってる。
そりゃまぁ、予定通り穂波がアメリカ行って、おれは日本にいるなら貴重な時間ではあるけど。
そんな、言うほど… って言うかそれならそもそも今日来ること自体を……ってことになってくるでしょ。
そんなこと微塵も思ってないし、それに、
「…いや、別に。 あとからたっぷりできるから」
別に今日のうちにたっぷり、できる。
そのままを伝えたら、元也くんは一瞬ぽかんとして、
それから、ふいに突拍子もないとこが聖臣に似てる、とか言って落ち着きを取り戻したみたいだった。
『カズくんがなんだった?』
「あ、卵なんちゃら… ごめん忘れたけど、卵っていえばわかるからって言ってた」
『あぁ、天ぷら。 うん、ありがとう、すぐ行くね』
そう言っておれにもう一度キスを落として、穂波は先に戻ってった。
…卵の天ぷら?