第3章 くじら
ー月島sideー
今日は、夕飯の時間、穂波さんも同じ時間帯に食べていた。
自分が食べないと、一緒に仕込みをする阿部さんが食べないから、とか
大方そういうとこだろう。
アジフライ美味しかったな…
っていうかキャベツの千切りだけで美味しいっていうのは
素材の問題なのか?切り方? …いやそれだけじゃない気がするんだよな。
とか、考えながら山口と銭湯に行って。
部屋に戻る前にちょっと、調理室に寄ることにした。
行ってみると、調理室前の廊下に赤葦さんがいた。
中に入らず、立ってる。
聞き耳を立てるとかそういう類のことをする人じゃないけど
今は入るべき時じゃないと感じる何かがあるんだろう。
「お疲れさまです」
小さな声で挨拶をし、横に並ぶ。
『のんちゃんと、台所いるのはねぇ、そうだなぁ…
…ちょっと、京治くんと一緒にいる時に似てる!』
どこかうっとりとしたような声で穂波さんが言う。
こういうとき、赤葦さんはどんな顔をするのだろう。
気になってちらと表情を見てみると…
相変わらずのポーカーフェイス。
頭の中では何かをすごい速さで考えて処理してるんだろうか。
それとも意外と何も考えてないのだろうか。
「………」
みたいな感じで。
阿部さんの声はよくは聞き取れないけど
多分、謙遜というかそう言う感じで返しながらも素直に受け取ってるんだろう。
阿部さん自身もそういう人に見えるし
素直に受け取るしかないような力を穂波さんの言葉は持っている。
『…ふふ。なんだかね、いろいろ、ちょっとね、似てるなって思うんだぁ。
すっごく安心するし、心地いいし、いつまでも一緒にここにいたいってなるよ』
………。
いつまでも一緒にここにいたい?
いや、ちょっと、それをさ、逆にね、逆に本人に言うのは
天然たらしで逆に済むけど…
本人がいないとこで間接的に言うのって、それ相当タチ悪くない?
穂波さんはこういう人だ、で収めれなくなるっていうか。
それでもやっぱり赤葦さんは安定のポーカーフェ……
…!
口元に手の甲を当てて、ちょっと節目がちになって思いっきり赤面してるし。
ちょっと… 2人揃って反則でしょ、これ。