第3章 くじら
ー穂波sideー
のんちゃんと仕込み。
簡単な材料で、参鶏湯風の鶏出汁のスープ。
鶏もも肉と手羽元を湯通しして、よく洗う。
それから、お米、にんにく、生姜、ネギの青いとこ、
塩と一緒にひたひたの水でくつくつ。
大きな寸胴鍋2個で。くつくつ。
のんちゃんは一旦落ち着いたタイミングでメモを取り出す。
さっき私が言った、明日の朝の献立を綺麗な字でメモしてた。
そこに、段取りを書いてるみたい。
前日。当日。ってわけて、やることを書いてる。
だから今から書くのは多分、今やったこと。
「谷地さんがおっしゃってましたが、本当に参考になります。
なんていうか、合宿の枠を飛び出て、今後に活きてきそうです。
活かせるといいな…」
『えぇっ』
「…?」
今はまだ、参鶏湯くつくつしてるだけなのに、お褒めに預かりよくわからない声を発してしまった。
『ううん、なんでもない。そう言ってもらえて嬉しいです。
のんちゃんなら自分に合うやり方を見つけて、自分のものにしてくんだろうなって思う』
「いえ、そんな… でも、ありがとうございます」
『いえいえ、こちらこそありがとうございます。
…わたしね、誰かと台所立つの好きなんだぁ』
「そうなんですね」
『なんだろなー相手をさ、じーっとじゃなくて、それとなく見ながら、
相手を感じながら動いてく感じ。楽しい。2人でテトリスやってるみたいな』
「…テトリス」
『調理そのものだけじゃなくてさ、洗い物とか道具の回し方とか、コンロの具合とか?
なーんか全部。空間ぜーんぶ。楽しくてすき』
「なるほど、テトリス」
『のんちゃんと、台所いるのはねぇ、そうだなぁ…
…ちょっと、京治くんと一緒にいる時に似てる!』
「京治く… あ、赤葦さんですか!?えっ、そんな恐れ多いです…」
『…?』
「あんな聡明で落ち着いた方と…」
『…ふふ。なんだかね、いろいろ、ちょっとね、似てるなって思うんだぁ。
すっごく安心するし、心地いいし、いつまでも一緒にここにいたいってなるよ』
「…/// …そ、そんな わ、私なんてお答えしたら……」
のんちゃんを赤面させてしまった。
ううう… 申し訳ないけど、かわいい…