第10章 梅と
「ふはっ そのきょとん顔何? かわいいけど」
『だだだって、今っ』
「穂波さ、俺に油断しすぎ。前から思ってたけど」
『ゆ、油断? 油断とか警戒とかないからっ』
油断とか、警戒とか… ないから。
「…笑 ウケる。 ごめんごめん、これ以上はしないから、今は」
『…Tシャツ似合ってる』
「うん、普通に気に入ってるけど。 穂波も着てるじゃん」
『うん、せっかくだし着たぁ』
「…せっかくだしって言うけど、思いっきりペアルックだよ?」
『…笑』
色味が被る、とかベーシックなアイテムが一つおそろいだった、とかじゃなくて。
ロゴの色だけ違う、同じデザインのTシャツ。
このメーカーではベーシックなものだけど、みんなが知ってる、っていうのじゃないから
ペアルックにもみえるかもしれない。
Thrasherっていうアメリカのスケボーマガジンのアパレルライン。
倫ちゃんのは黒地に黄色いロゴ。ベージュのチノパンを合わせてる。
わたしのは黒地に白いロゴ。ボトムはグラミチの花柄のやつ。
『それそれはでおもしろいからいいけど…』
「…けど?」
『もしかしたらカズくんに辛く当たられるかも 笑』
「カズくん?」
『うん、カズくん。まぁ、倫ちゃんの目も覚めたことだし、家行こう?』
「そだね、じわじわ暑くなってきたし」
倫ちゃんがうちに来るのは初めて。
普通に玄関から入るかなって思ってたんだけど、
「庭もあるんだ」
って倫ちゃんが普通に裏に向かって歩いてくから、そのまま、縁側からハーイって。
「おー角名、起きたか。 てか、服お揃い?」
「そ、お揃い」
「研磨クンと穂波ちゃんはショーパン色違いだし、なんか俺疎外感!」
研磨くんも花柄グラミチ履いてて。
三兄弟の家に遊びにきたみたいって、古森くんが言い出した。
誰が一番上かな、とかそんなことをわたしと古森くんだけで盛り上がりながら、
梅干しを漬けてる琺瑯の容器を持ってくる。
今日の朝早いうちに持ってこようとしたけど、研磨くんに止められた。
重たいから、みんなが来た時にやればいいよ、って。
おれがやるよ、って言わないあたりが、研磨くんらしくてくすってなって。
すき、ってなった。