第10章 梅と
お庭からそのまま表に回って、古森くんの車のドアを開ける。
助手席ではすーすー寝息を立ててる倫ちゃん。
小さな声でちょっと動くね、って言って。
それから木陰のとこまで数メートル動かして停める。
窓を開けてエンジンを切って。
『倫ちゃん、大丈夫だと思うけど暑くなる前に起きてね。
暑すぎるかもと思ったらまた起こしに来るね』
それだけを、やっぱり小声で伝えて。
がちゃとドアに手をかけようとしたらぐって左手を掴まれた。
「どこ行くの?」
『へ?』
どこ行くのってここは、車だよ。
倫ちゃんこれ、寝ながらやってるんだ。
だってまた、すーすーって寝息を立て始めてる。
『先家に戻っていろいろしてるね。
また暑くなりすぎないうちに声かけにくるね』
小さな声でそう言って、やんわりと倫ちゃんの手を右手で掴んで手を離す。
思いの外すんなりと手が抜けたな、なんて思ってたら今度は右手をぐっと取られて引き寄せられて。
そのまま、倫ちゃんの身体に向かってとすん、とダイブしてしまった。
「もうちょっとだけ」
『…倫ちゃん、起きた?』
「うん、今起きた」
『…ん、おはよ』
起きたかぁと思って見上げれば、倫ちゃんもこっちをみてる。
「そっから見上げられるとしたくなることは一つ」
『…?』
「でも残念ながら角度がちょっとキツイからやめとく」
『…?』
「それとも穂波ちょっと身体起こしてくれる?」
『へ?倫ちゃんの?』
「いや俺は自分でできるから」
『あ、ごめん、自分のね!重いよね、ごめんごめん』
「いや、俺が引っ張ったし。重くはないけど、ちょっとだけ身体離してみて?」
よくわかんないけど、身体を少しだけ離して。
すると背筋が伸びて、身体自体は離れたのに顔の位置はちかくなる。
倫ちゃんの顔って、空気感って、ほんと。
わたしにとって、親しみやす……
?
「ぽかーんとしてると、もっぺん食うよ? 次はもっと深ーく」
へ? 倫ちゃん今、キスした?
キス魔倫ちゃんなんて聞いてない。