第3章 くじら
ー研磨sideー
今回は穂波が夜もいる。
…って去年も抜けたのは3時間くらいのことなんだけど。
でもなんか、合宿中の穂波のとこには、
甘い匂いに誘われるみたいに色んな人が集まってくるから。
少しでもおれも会いたいって思った時に会えると、嬉しい。
「ひょえー!魚だ!鯵だ!うまそーーー!!」
アジフライ、キャベツ千切り、くし切りトマト、人参しりしり、茶碗蒸し、
小松菜の辛子和え、水茄子の出汁漬け、えのきとモロヘイヤと豆腐の味噌汁、ごはん。
それから、メロン。
…うん、美味しそう。
鯵は、いつものおじさんの店に頼むって言ってたな。
「茶碗蒸しもある!おれ、穂波ちゃんの茶碗蒸し好きだ!」
「あぁ、うん。美味しいよね」
口当たり滑らかで。出汁の味も卵の味も優しくて。
おれも、すき。 全部、すき。
それからやっぱり犬岡もリエーフも来て。
なんでかわかんないけど、いつも賑やかな合宿の食事。
「お!穂波ちゃん!今日は夜もいるんだな!」
翔陽の声におれも横を向くと穂波がいる。トレーもって。
『うん。ここで食べてもいい?』
「…う「「「もちろん!!!」」」
3人が被せ気味っていうか、おれの声なんてかき消す声で答える。
「…仕込みは?」
『一人だとついやっちゃうけど、のんちゃんいるし。先食べちゃえばのんちゃんも食べてくれるから。
それに、一緒にやると早いから、さ』
「…ん。味噌汁、うまい」
夕飯は、味噌汁とからし和えと茶碗蒸しから穂波の味がする。
『ほんと?よかったぁ。おかわりもあるからね。モロヘイヤって美味しいよねぇ〜』
嬉しそうに、幸せそうに穂波が言う。
「…今日は、夜、誰かと約束ある?」
赤葦に聞かれたから知ってるけど、なんか回りくどい聞き方しちゃった。
『ん?仕込みのときかその後に京治くんと。研磨くんもくる?』
「…ううん、いいよ。赤葦にも予定があるだろうし」
『…?』
「銭湯から戻ったら教えて」
銭湯への行き帰りもきっと、阿部さんとするだろうし。
なんかなかなか2人になれないな。