第3章 くじら
ー穂波sideー
『…あ、でも寝ながらね、鯨になりたいって言ってたって。
ね、研磨くん、そんなことあったよね』
「うん。 生まれ変わったら鯨になりたい… って寝ながら言ってた」
「へー!なんで鯨?」
…なんでだろう?
『鯨見たことある?』
「ううん、ない!穂波ちゃんはあんの?」
『うん、何度か。 なんかね、すごいんだよ鯨ってほんとに』
「でっかい?」
『うん、大きい。大きくて大きくて大きい。身体だけじゃなくてなんかね、ほんと、すごいの』
「へー!なんかすげーな!」
「…笑」
研磨くんがクスッて笑ってる。
わたしの語彙力の残念さもさながら、
それに普通についてきてくれてる翔陽くんとの会話が面白いんだと思う。
なんか前、そういうこと言われた。
けなす感じじゃなくて普通に。
翔陽くんと犬岡くん達の会話、
研磨くんにはわかんないこともあるけどわたしなら普通に話せるんじゃないかなって。
『だからね、まずわたしの身体を分解してもらってさ。微生物たちに』
「へ、へー?分解?」
『それでプランクトンとかオキアミとか鯨のエサのの一部になって、
鯨に食べてもらって… 鯨になりたい。 鯨の一部になって、広い広い海を泳ぎたい』
「………」
『海がそのまま、ありのままで広いままであって欲しいな』
「…? 海は広いじゃん!」
『海は広いよ。何もかもを受け止めてくれる。海はね、広い。 …けど』
「…?」
『色んなネットもいっぱいあるよ。色んな、ネット。色んな生き物が引っかかってる』
「…そっか……」
『まぁいいや、ごめんね、つい。そんなわけで生まれ変わったらわたしは鯨にもなりたいです。
そしたら研磨くんが鯨か、それかダイバーになってわたしに会いに来てくれます』
「いいな!すげーいいな!じゃあ俺もダイバーになって会いに行くからな!」
『うん、翔陽くんに会えたら嬉しいなぁ…』
途方もない妄想に、なんの力みもなく普通についてきてくれる翔陽くんに心が和む。
「あ、あの、穂波さん」
犬岡くんがちょっとだけ遠慮がちにわたしの名前を呼ぶ。