第9章 aims
ー研磨sideー
『カオマンガイもいいね』
「なんかちょっと違うのもある」
『カオマンガイトート… それもいいねぇ♡』
「食べれそうだったらあとで頼もっか」
おれらはカオマンガイが好きだ。
父さんが結構アジア料理好きだから、子供の頃からたまに食べてた。
穂波のを初めて食べたのは合宿で、
それから国立に越してきてからの土曜の置き弁に1ヶ月に一回くらいのペースで登場してる。
タイで食べると血の塊みたいなのが付いてくるんだって言ってたけど、ちょっとよくわかんなかった。
おれも穂波も血とか内臓とかあんま好きじゃないのに、妙に興奮してて。
でも血の塊みたいなのって表現じゃひとつもそそられなくて。
未だよくわかんないまま。
福永が靴箱作ってくれた日の置き弁もカオマンガイだった。
──「福永、お腹空いてる?」
「うん」
すごい集中して、靴箱作りに没頭してくれてた。
カットして、ヤスリかけて、ステイン剤塗って、乾かして、重ね塗りして。
まだ組み立てまではいってないけど、今がいいタイミングなのかなと思って声をかけた。
「穂波が弁当作ってくれてる。縁側で食べる?家入る?」
「…縁側で」
「弁当、あっためる?」
「ううん、弁当はあっためない派」
「へぇ」
聞いてみてよかった。
でもなんか、わかる。
おれも弁当はあっためないことの方が多い。
それでも美味しいように作ってくれてるから、それでも美味しい。
むしろそっちの方が美味しい気がする。
カオマンガイ、きゅうりスライス、トマトスライス、
紫キャベツのナンプラー和え、人参のソムタム、タイ風オムレツ。
鶏を茹でた時の汁で作ったチキンスープ。
スープだけあっためて、スノーピークのマグによそって、縁側に持ってって食べた。
福永は猫みたいな顔して、美味しそうに食べてた。
おれが作ったわけじゃないのに、いや、穂波が作ったからかな。
なんか、妙に嬉しかったのを覚えてる。