第9章 aims
ー穂波sideー
「ごめん、穂波」
試着し終えた服… 研磨くんが選んでくれた服を店員さんに渡して
お話ししながら歩き出すと、研磨くんがすごく気まずそうな顔をして…ごめんって。
なんだろう?
「…もう一枚、買いたい。 じゃなくて、着てみて」
「………」
『………』
なんだろな、例えば、カードなくした。とか。
株で失敗した。とか。
急な用事がはいって今日明日の予定全部なしで、時間ないからごめんここに置いてくね、みたいな。
そういう類のことが続くのかなっていう気まずそうな感じっていうか。
すこし腹を括った。 大体のことは受け入れられるよ、別れよう、とか言われない限り。みたいな。
なのに、もう一枚買いたい、をこんなにも、驕ることもなく、
むしろ申し訳なさそうに聞いてくるなんて。
研磨くんってやっぱり、かわいい。すてき。ずるい。
店員さんと顔を見合わせてしまう。
研磨くんは目線を落として所在なさげ。
『研磨くんがわたしに着てほしいって思った服があるなら、着てみたい。
100枚でも200枚でも試着する』
でも実際10着も試着してない。
マーガレットハウエルではピンと来なかったから何枚か試したけど、4枚くらい。
アニエスベーでは1枚きて即決。
そしてここでも今さっきそうだった。
「…だめ この店でそれ許されたらおれほんと馬鹿になる」
「くふっ…… 失礼しました……」
研磨くんのあまりのかわいさにお店のお姉さんが吹き出した。
「どちらをご試着なされますか?」
「…あ、んと」
お姉さんと研磨くんが服を取りにいく姿を見守る。
すごいなぁすごいなぁ……
なんか、すっごい、幸せだなぁ。
研磨くんがわたしのことを考えてくれてるって、それだけで奇跡みたい。