第9章 aims
「…ちょっと待って、あっちもみてもいい?」
地下でケーキを買って、一階から外に出て。
研磨くんがわたしの服を小さく引っ張って松屋銀座の別館を指差す。
『…? うん、もちろんだよ』
「ん、ありがと」
こんなにお買い物に積極的な研磨くんもいるんだな。
家電の時も家具の時も妥協はないけど、でも省エネだった。
いろんなお店を見て回ったりはしなかった。ネット以外では。
「…あ、よさそう。 入るね」
アニエスベー。
着たことないけど、綺麗だなぁとは思う。
研磨くんに付いて歩いてるとどうも、
わたしの服を選んでるらしいことに気付く。
気付くのが遅いくらいだとは思うけど、ぼんやりしてた。
「…ん、これ、着てきて」
『うん』
研磨くんはスタッフさんに目配せをして、
わたしをフィッティングルームへと誘導する。間接的に。
さっきも思ったけど、研磨くんに選んでもらった服を試着できるのっていい。
それにさっきのお店ではわたしも、ワンピースは自分にしっくりこないなぁって思ってた。
そしたら研磨くんもそう思ってたみたいでほっとした。
すごく素敵、って思ってもなんでも自分にしっくりくるわけではないし。
そして、研磨くんにこれ。って言われたとしても
自分にしっくりきてなかったらわたしはお断りすると思うから。
だから、なんだろな… ホッとしたし、同時に嬉しかった。
・
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「うん、決まり。かわいい」
どうかな、の ど の字も発音する前に、研磨くんはそう言った。
「…ふふ ほんと、よくお似合いです」
『…ん』
「あ、でも後ろ向いてみせて?」
今の流れでそれってずるい。
普通に見てもらうなら普通にしたと思うのに…
この流れだと恥ずかしくなる。
オレンジ色の地にボタニカルプリントが施されたノースリーブワンピース。
身体にフィットするってほどタイトな形じゃないけど、ゆったりしすぎてもいない。
襟元は深めの綺麗なラインのVネック。
自分の肌の色や髪の色とも合うな、って思ってた。
好きだなって。