第9章 aims
ー穂波sideー
──夕くんは夕くんだった。
泊まりの人はわたしたち以外にいなくて。
小屋主さんは2日後に来るから、と言って夕方になる前に下山して行った。
だからアルコールランプの光の中、3人でたくさん話をした。
電気も、あるんだけど。
アルコールランプも用意してあって、すごく雰囲気があって。
夕くんって賑やかなのも熱いのもすっごく静かなのも冷静なのもぜーんぶ夕くんで。
そんなの当たり前のことなんだけど、
でもそれがやっぱりなかなか、ここまで振り幅ある人に出会うことってあまりなくって。
夕くんって本当にかっこいい。
幸郎くんって本当にかっこいい、とか。
今日ずっとそんなこと思ってるなって思いながら、夜を過ごした。
朝、もう一度山頂まで登って。
夕くんが用意してくれた朝ごはんを食べて。
帰りは上高地じゃなくて中の湯ルートで下山した。
中の湯温泉に日帰り入浴をして、わたしはバスで東京まで。
幸郎くんは電車で岐阜へと帰った。
「それじゃあ、また、いつかどこかで」
『うん』
「インスタ、匂わせだけした。すっごい反応ある 笑」
『匂わせ?』
「うん。 …まぁいいや。穂波ちゃんも気が向いたらアメリカの空とか、投稿してみて。
ダンスも、見てみたいけど」
『うん、ちょっと前向きに検討しようと思ってるとこ』
「…検討してるわけじゃないんだ 笑」
『…笑 うん、まだ検討するか決めてるとこ』
「ははっ おもしろい。 じゃあ、またね。 ハグしよう?」
ぎゅーと大きなハグをして、身体を離すそのタイミングで。
ふって、柔らかいのが唇に触れて。
『…ん、え? ん?』
「きっと同じ気持ちの人結構いるのを察するんだけど」
『ほ?』
「穂波ちゃん、ハマりそう。でもしばらく会えないから、思い出に。いただきました」
『おも…いで…』
「続編も期待しておいて。 じゃあね、元気で。 また連絡するね」
そう言ってひらひらと手を振って爽やかな笑顔で、幸郎くんは去っていった。
唇に、あったかくて柔らかな感触を残して。