第3章 くじら
ー月島sideー
シンクのとこで穂波さんとハグをして。
そのまま身体を寄せたまま、
お互いの顔をみながら会話をした。
ごく、普通に。
会話の終盤で、横にある人だかりに気付いた。
「このままキスでもします?」
『にゃっにゃにをっ……』
「…笑 じゃあ行くね。孤爪さんに弁解がいらないだけ、すごいラク」
こういう時って普通、真っ先に恋人に変な噂が…とか考えるんだろうけど。
その必要がないから、ほんと。
…って言っても結構めんどうなのかもしれないけど、
でもまぁ結局、孤爪さんと穂波さんが安泰ならそれは安泰で、
それなら僕もそれはそれでいい。
っていうかこの際もう、浮気相手でいいんでって孤爪さんに言ってみようかな。
いいよ、とかもしかしたら言いそうな気がしてくる。
…なんてね。
僕が歩いて行くと、人だかりが道をあける。
「あっちょっとツッキー!」
山口。
それから、
「おい!月島!」
「こら何か説明しろ!」
西谷さんと田中さん。
孤爪さんは人にあれこれ口外する人じゃないし、
僕ら3人にはわりといつものことでも、
烏野の2、3年にとってはそれなりにインパクトのあるシーンだったっぽい。
音駒の2、3年はそれでも穂波さんって生き物に慣れてるんだろう。
多少の僕への圧は感じるけど、別に衝撃的なシーンってわけではなさそうだ。
でも多分、音駒の人たちと僕以外にとって、
これは結構な大事で、それから何より不可解なのは、孤爪さんがケロッとしてることなんだろう。
…とか。
僕が頭の中で考えてる間も、
西谷さんと田中さんはわーわーと喚いている。
「…はぁ、もううるさいです」
「うるさいとはなんだ!」
「説明も何も、見たままです。
西谷さんも穂波さんとハグするじゃないですか、別れ際に。
あれの再会版ですよ。話してたのは、まぁ、話すことがあったってだけです」
「いやでも月島、髪の毛触ってただろ…!」
「それに目が全然違ったぞ!
俺らに対するのとはもちろん、他の女子に話しかけられた時にする目とも全然!」
あぁ…結構どころじゃない。
だいぶ、うるさい。