第3章 くじら
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「ごちそうさまでした」
蛍くんが立ち上がって、トレーを運ぶ。
『うん! あ、食器ありがとう。置いておいてね』
…そろそろお皿洗いにしないとな、溜まっちゃうな。
しりしりしまくって腕もちょっと痛いし休憩がてら洗おうっと。
「………」
『…?』
「穂波さんもしかして忘れてます?」
『…?』
「ハグ、してください」
『あ!忘れてた。 もちろん、よろこんで!』
手を拭いて、蛍くんの元へ。
ぎゅうっと。
久しぶりに嗅ぐ蛍くんの匂い。
感じる蛍くんの体温。心臓の音。
それからここから見上げると、
少し遅れて見下ろしてくる、優しい、目。
…ドキッ
ありゃ… ドキッとしちゃった…
蛍くん髪が少し伸びてて、くるってしてて… お人形さんみたい。
「あー、安心する。やっぱ僕、穂波さんのこと一つも諦められなそ」
『………』
「…あと一年もしないうちに卒業しちゃうなんて。
他校の、いや他県の僕にはただでさえ過酷なのに。アメリカに行っちゃうんだもんな」
『………』
蛍くんの指が髪に触れる。
「やれること、なるべくやりたいな。一緒に」
『うん』
「やれること、なるべく」
『うん?』
「夏、宮城くるとき、僕ん家泊まってって」
『え?いや、それはご両親にスノボの件の挨拶を遅ればせながらしに行くのであって…』
「大丈夫。もうめちゃくちゃ好感度は上がってるから」
『…へっ?』
「だから、考えといて。泊まりできてくれたら、烏野周辺とかも案内できるし」
『…あ、うん? わかった。 …って、えっ?』
「…え? 笑」
『や、ううん… なんかもう普通に泊まる感じになってたから』
「あぁ、まぁ、考えといて、だから。彼にも相談してね」
『うん? ん? うん』
「…笑。 じゃあ、そろそろ行きます。 ギャラリーがすごいことになってる」
『…?』
ギャラリー?
ふっとドアの方を見ると、すごい、人…
あちゃー…