第9章 aims
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ゆっくり歩いて。
途中立ち止まって休憩がてら山の空気をたっぷり味わって。
そして、カモシカにまで遭遇して。
もうすぐで小屋なのかなぁというところまで来た。
ちょっとだけ長い、梯子。
山にあるだけで、崖にかかってるだけで、どきどきする。
それを登り終えた岩のとこで、また一休み。
幸郎くんとはなんだろう… なんだろうな…
「俺こんなにペースが合う子初めて。女の子とか関係なく」
『うん、一緒にてすっごいラク』
「うわぁ〜ってテンション上がるポイントもかぶってるとこあるし」
『うん、全部被ってるわけじゃないのがまた気持ちいい』
「うっわーこれ本当、運命感じちゃうとこだけどもう無理なの?」
『へ?』
「いや、無理なんだろうな〜」
『…幸郎くんはどんな獣医さんになるの?町の獣医さん?動物園?家畜?』
「…するっと話題変えられちゃった。 俺はね、野生動物の臨床医にいずれはなりたいと思ってる」
『わぁ…』
「でも、ペットって呼ばれる動物も家畜と呼ばれる動物も好きだし、
俺に助けられる命があるなら助けたいと思う」
『うん』
「だから、まだ近い未来のことは分からないけど…
っていうかまだ一年が始まったばっかでまだ専門性はないけど、
うん、いつかは国内外問わずどこかで、野生動物とかを診れたら」
『うん』
「アラビアオリックスとか、診てるかもしれないよ」
『うん、素敵』
「…ははっ ほんと、静かな子だよね。 天真爛漫で賑やかで明るくて、でも静か。
その静けさがナウシカっぽくて、それからアラビアオリックスっぽい。
いや彼らは別に静かなわけじゃないんだろうけど、砂漠に立つその姿っていうか」
『…?』
「君の話をしてる」
『へ?』
「…まぁそんな理由もあって、岐阜大にしたよ。無事に合格できてよかった。
地元も遠くはないし、野生動物の研究にも力を入れてる」
『そうなんだね、すごいな。すごいね、幸郎くんってほんとに……』
かっこいい。
心から、そう思った。
だいぶ標高が高くなったその場所に、心地よく風が抜けて。
何もかもが、完璧なシーンを作り出してるようだった。