第9章 aims
「穂波ちゃんってもしかして、食べるの好き?」
『……何でわかるの』
今、食べてないのに。
おやき、どれにしようか考えてるだけなのに。
「誰にでもわかると思うよ」
からかうでもなく、穏やかに、でもどこかおかしそうに。
幸郎くんは笑って、それからわたしの頭をぽんぽんってした。
「俺はやっぱ、野沢菜を推すな」
『だよね、うん。でも全部野沢菜?』
「全部? あぁ、そっか、小屋にいる友達の分も買うの?」
『うん、だから…四つあればいいかな、冷蔵庫ないんだって、その小屋』
「へー、食材どうしてるんだろ。ヘリ?」
『最初だけヘリで、あとは歩荷だって』
「ぼっか! すっご、今時あるんだ、そういうの」
夕くんが焼岳小屋で住み込みバイトをすることを決めたのは、
その、歩荷があることだと、電話で教えてくれた。
…んと、正確に言うと、
一度まだ山小屋に行く前に宮城から国立の家にハガキが届いたのだけど、
なんて書いてあるかわかんなくって…
その後の電話でもう一度話してくれて理解した。
一度書いたことを聞くと、読めるようになったりして。
個性的な字だって、慣れれば、読めるようになるんだろうなって。思った。
『ね、3日に1回とか?繁忙期は毎日とかなのかな、降りて、
買い出ししてもらったもの背負って、登ってくるんだって。
夕くんと、小屋主さんと2人で今の時期は回してるらしいよ』
「…へぇ、小さな小屋だもんね、それで回るんだ」
途中、水芭蕉の群生を見たりしつつ、登山口までやってきた。
ここに来るまでに、幸郎くんは何度か写真を撮っていた。
手を繋いだままの時もあったし、手を離して撮って、また繋いでって時もあった。
その途中一度、
「ふふ、匂わせってやつ。 俺も大概拗らせちゃってるかも」
って言ってた。意味はわからない。
けど、幸郎くんはとにかく、かっこいい。
初めて見た時から思った。
ユニフォーム姿ないしジャージ姿しか見たこと無かったけど、
登山服に身を包んだ幸郎くんはまた、たまらなくかっこいい。
これ今日思うの何回目だろう?って思いながら、
登山口で幸郎くんと一緒に自撮り?をした。