第9章 aims
「ぅるせーな… ボゲが… 西谷さんがどうした?」
「穂波ちゃんと山小屋で会うって言ってた!会った!?」
『あ、うん!会ったよ、会ったよ会ったよ!』
──「穂波ちゃん、久しぶり」
『幸郎くん〜〜〜』
5月10日(土)
関西方面での用事を終えて、大阪からそのまま高速バスで上高地に来た。
そしてそこで久しぶりの幸郎くんと再会した。
ぎゅうとハグをして、
春高ぶりの再会をここできるなんて嬉しいって。
身体がきゅーってする。
『こっちはずいぶん涼しいねぇ』
「うん。そうだね。上はもっと涼しいだろうね」
ここから遠く見える北アルプスの山々の山頂を見上げれば。
みーんなしっかり雪化粧、してる。
「荷物、送ったりしたの?関西で泊まりだったにしては少ないね」
『うん、送っちゃった。このあとは直帰だから、ここで必要なものがあればいいかなって』
「うん。じゃあ、登山口まで歩こうか。 …ちょっと休憩する?」
『ううん、途中でおやきだけ買ってカバンに入れていきたいな』
「うん、じゃあそうしよう。 …あ、はい」
歩き出した幸郎くんがふっと振り返って手を差し出した。
『…?』
「今くらいでしょ、手を繋げるの。登りだしたら、そんなことしてられないし。
いやできるけど、そういう感じでもないでしょ、穂波ちゃん」
『え… あ、うん?』
「お願い、手、繋ぎたい」
『…え、あ、うん。わたしも?』
幸郎くんと手を繋ぐのなんて初めてで。
突然、どきどきがマックスで押し寄せた。
「ははっ かわいい。 山小屋、空いてるのかな、空いててもいいけど。
空いてなくて布団くっつけて寝れるのもいいな」
『えっ』
「冗談冗談」
そんなこと言いながらまだ身体の横にあるわたしの手をさっと取って。
わたしはどきどきと共に安心感に包まれる。
幸郎くんは相変わらずの抜け感で、心底かっこいいと思った。
この、抜け感の人は何してもかっこいい。何を言っても。
たとえ面白くないギャグを言っても、キメるはずのとこポカしても。
その後の本人の空気感含めて、
総合的にかっこいいもしくは愛おしい魅力にしてしまう、類のひと。