第9章 aims
ー穂波sideー
蛍くん、アメリカまで来てくれるんだって。
宮城で会えるかっていう近い現実的なことには軽口は叩けないけど。
少し先の、夢まではいかないけど、わくわくのビジョンみたいなことには、
軽口、では断じてないけど、わくわくで返すことはできる。
っていうか、そうなっていく。
夕くんと話している時なんか特にそうだ。
カリフォルニアの科学博物館的なとこのことを思い出した。
温室の植物園には爬虫類や虫がたくさん生息してるし、水族館もある。
ティラノサウルスの化石標本もあるし、そして建物も立地もすごくいい。
蛍くんと行くのはきっと、とっても楽しいだろうと思った。
仙台でも上野でも、本当に楽しかったし、
それに何より、展示を見ている蛍くんの表情を見るのが幸せすぎた。
──「ねぇ僕、まだまだじっくり見たいんだけど」
館内のレストランで頼んだものを待っている時に、
蛍くんが妙に真剣な様子で切り出してきた。
とてつもなく可愛いと思った。
『もちろん。お友達との集合に間に合えばわたしはいくらでも。今日はレッスンないし。
特別展もみれたらみたいくらい。太古の哺乳類展だってね』
「あぁうん、僕も見たい」
『でもまず目指すは地下一階、だよね。楽しみだね』
「え、あ、うん… 何でわかるの?」
『何でわかるって、忘れれるわけないよ。
森然での合宿で、初めて一緒に夜歩いた時。蛍くんから聞いたもん』
忘れられるわけがない。
知り合ってまだ間もない蛍くんがはっきりと言ったんだ。
───『次4個目?んーとー、蛍くんの好きなものはなんですか?』
「…ショートケーキと恐竜です」
『…ちょっと!それは反則』
「なんでですか?何がですか?」
『…なんとなくです。本人は知らない方が魅力的なコト』
まだ知り合ってばかり、
クールで知的でどこか温度を感じないような第一印象を受ける蛍くんから出た
「…ショートケーキと恐竜です」
の破壊力ったらなかった。