第9章 aims
ー月島sideー
『…どうかな 宮城にはいく予定だけど……会いに行けるかな』
我ながらいつになく切羽詰まった声を出してしまった。
穂波さんは優しく、でも誠実に言葉を紡ぐ。
適当に会えるよ、とか言わないところが好きだ。
だけど、会いたいのも本音だ。
「じゃあ、必ず、予定が決まったら連絡して」
『うん、うん。わかったよ、蛍くん。 必ず連絡するよ』
連絡はしてくれても会えるとは限らない。
そう思うと…
「無理だ、我慢できない」
腰をかがめ顔を近づけ、穂波さんの顎をくいっとしてキスをする。
僕、好きです、穂波さんのこと。
諦めるつもりも、忘れるつもりもない。
会う機会が減っても変わる気がしない。
あぁもうだめだ、好きすぎる…
語彙力が崩壊した。
実際言葉にはしてないけど、キスに乗せた想いはそんな感じで。
好きすぎて本当に離れたくないと思った。
『…ん、 ん』
そっと離れると、穂波さんは小さく頷いた。
『蛍くん、ありがとう。 …んと、わたし帰る前また、蛍くんに声かけるから。
もしそれより先に銭湯へ行くなら、その時に蛍くんからも声かけてもらえると嬉しいな』
諭すように優しい声でそう言って。
特別なことを言われたわけではないのに、すーっとなにかが引いていく。
この人はきっと、変わらない。
僕の想いも変わらない。
だから、衰退することはない。
停滞はするかもしれないけど… でも今までだって遠距離だったわけだし。
ていうか、
「僕、大学いったら絶対バイトしよ。お金貯めて会いに行くよ」
会いにいけば良いだけだ。
今よりはずっと身軽なはずだから。
『…ふふ、会いに来てくれるの?嬉しい。ありがとう。
……California Academy of Sciences ってとこがある。
科学博物館的なとこ、おもしろいからきっと行こうね。蛍くんと博物館行くの大好き』
穂波さんの顔が綻ぶ。
この花のような笑顔が溢れる度、
いつもなぜか吹いてもいない風が頬を撫でるような心地がするのは何故だろう。
不思議なようで、一つも不思議じゃない、穂波さんの魔法だ。