第9章 aims
ー月島sideー
──「なんですか」
地球館の2階で、じっくりとオオカミの剥製をみていた。
この日本という国において、オオカミという存在は、想いを馳せずにはいられないものだと思う。
すると、いつの間にか隣に来て僕を見つめる穂波さんの視線に気付いた。
にやにやと、でも揶揄う感じではなく。
嬉しそうに僕を、みている。
(学ラン着て、じっくり展示をみてる少年みたいな)
『蛍くんが、愛おしくって』
「…なんか端折ってません?」
『…端折ってません』
「あ、そ」
『…オオカミ』
「オオカミ」
『かっこいいねぇ』
「ほんと。この生き物がこの日本の山で普通に生きていた、と想像するのは簡単なようで難しい。
生態系にとってもかなり大事な存在であって……」
『ほんとだね、いつまでもここで空想してられる。
生態系に関しても、ほんとに思う。この国で生きてるものとして、知っておくべきことだよね。
鹿や猪や猿… いろんな獣害を嘆くけれど、
それはその被害が生活に関わってくる農家さんたちには当たり前の嘆きだけれど。
どうして、そうなったのかな、生態系のバランスを崩したのは誰?って、わたしたちみんなが忘れちゃいけないこと』
「梟も数が少ない今、僕たち人間がどうにかするしかないわけで」
『うん、嘆いても仕方ない。できることをやっていかないとね。
それがどんな形でも些細なことでも良いから、すこしでも良い変化を起こせるように。
わたしたちはこれからもいろんな形で様々なことを学んでくんだね。
一度学んでおしまいじゃなくて、同じことでも何度も振り返ってアップデートして』
穂波さんと博物館に来るのは、相当良い。
昨日の美術館でそうじゃない場合を経験して改めてそう思った。
お互いのペースを崩さず、だからといって一人で見てるのと変わらない、状態でもない。
個人個人でありながら、共有し得る限りを心地よく共有するような。
この人は時間の軸がずれたところがあるから余計に、ではあると思う。
…あ、時間。
一旦昼食にしようか、きっと穂波さんならまだまだゆっくり付き合ってくれるだろう。
どのフロアのどの展示も最高に面白いけど、
この地球館の地下一階は… 絶対に見逃せないし、急足で見るなんてできない。