第9章 aims
『けーいくんっ 見つけたぁ』
上野動物園へと向かっていると、とんって背中に手が触れて。
後ろからにょきって、こっちを除きこんでくる。
…くそ、いちいち可愛い。
「あぁ穂波さん。そんな後ろから来て、人違いだったらどうするの」
こんなかわいい人に人違いで触ってこられて、
こんな風にかわいく下から覗き込まれたら。
僕ならうまく言いくるめて、この後の時間を一緒に過ごそうとする。絶対。
『わかるもん。蛍くんだよ?』
「…なにそれ」
反則。
思わず、穂波さんの髪に指で触れてそのまま耳にかけた。
この状態で真っ直ぐ見上げられると。キスしたくなる。
「え、何?月島、その人、誰?」
「え、夏に噂になってた他校の彼女!?」
「きゃー、月島くんが甘い顔してるー」
「っていうか蛍くんだってーーー月島くんのことそうやって呼ぶ人初めてみるね」
「そりゃ、彼女だもん」
「っていうか、彼女他校どころか… 東京住みなの?
やっぱ月島は宮城にはおさまってらんねーかー。ハイスペックだもんなー」
「っていうか今、キスしようとしたよね絶対!」
「山田が声かけなけりゃそのまましてただろうに!」
…あっぶな。
人前…っていうかクラスメートのすぐそばで、
公共の場で、屋外で… 普通にキスするとこだった。
「…まぁ、そんなとこ。ちょっと僕、彼女と一緒に行動したいんだけどいい?」
「いいよー月島くんはカメラマンに徹してくれたって落ちにしとこ」
「そしたら他の人にとってもらわなきゃだねー」
「帰り時間だけ合わせなきゃね。山田と連絡取り合ってうまくやって」
「…ありがと。 じゃあ、僕はここで」
想像以上に理解のある班のみんなの計らいで、すんなりとその場を抜けることができて。
セーラー服姿の穂波さんと手を繋いで国立博物館へと向かった。