第8章 そういえば
『実の所、お世話になってるのはこっちの方で… ほんとにいいのかな、ねぇお母さんほんとにいいのかな』
どこからどう見てもわたしがお世話になっている、この2人暮らしを。
研磨くんと話し合ったし、ちょうどいいところに落ち着いて、日々を快適に過ごしているのに
ふと、よくわかんない話をお母さんに振ってしまった。
「いいのよ、それは私たちも色々考えたわよ。研磨くんのご両親ともしっかり話した。
それから、研磨くんとも、じっくり話した末に、良い、ってなったんだから」
『研磨くんと?』
「そ、研磨くんと」
『いつ?』
「穂波、いいから。そこそんな大事なことじゃない」
「そうそう、そこそんな大事なことじゃない。
大事なのは、みんなが納得してるし、実際に2人の空気が、生活が、無理なく回っていること。
それからお互いに依存はしていないこと。前を見ながら隣をちゃんと、気遣ってること」
「そもそも、研磨くんが自分で稼いだお金なんだから。
使い方は、研磨くんが自分で考えればいいんだよ」
「…いやそれはでも、まだ学費とか」
「学費くらい払わせなさいよ、ばか!」
「…え、なんでまた怒ってんの… ばかって…」
「そうそう、こういうとこ。
こういうところから研磨くんの眼差しが見えるから、僕は研磨くんに任せようって思ったよ」
学費だとか出してもらえるものは払ってもらって
自分で稼いだ分は自分のことだけに好きに使おう…みたい感じでは全くない。
いずれは学費も、自分でできたらって思い描いてる。
そんな、ずるいくらいにずるくない研磨くんだから、ってことかな、と思った。
お父さんの言葉は、ふわっとしてるけどどっしりとしてて。
わたしにはすーと染みこんでくる。
「穂波の学費も…とか言い出した時は流石に断ったけどね 笑」
『えっ?』
「えっ?」
「ちょっと心さん、それ忘れてって言ったのに…」
研磨くんがはぁ…とため息をついて。
どういうこと!?って研磨くんのお母さんに追求されて。
なんでもないから… お腹すいたし… とか言って、流れを変えていたこと、よーく覚えてる。
どういうことだろ?って少しは気になったけど
忘れてって言ってたみたいだし、聞かないでおこって思った。