第8章 そういえば
ー研磨sideー
『研磨くん〜』
台所で何かしてた穂波が寝室に来て。
ベッドでゲームしてるおれにぎゅうと抱きついてくる。
髪の毛からはふわっと花の香り。
いつもと同じだけど、でも違う気がする。
「…いい匂いだね、それ。赤葦から?」
『うん。ゼラニウムのオイル。
いい香りだね、いつもはラベンダーも混ざってるの使ってたけど、ゼラニウムだけもとてもいいね』
「…ん」
穂波はここ最近、ベッドで結構…甘えてくる。
別になんだろ… 子供っぽくなったりにゃんにゃんするわけでもないんだけど。
こうやって一度抱きついてくると、離れない。
ワールドグランプリでも優勝できたし、初期費用はそろって。
株も買って、うん。スタートはしてる。
自分でお金を稼ぐこと。
でも株はまだ前の分を取っといたやつで買っただけ。
来週賞金が入るから、それでちょっと、目星をつけてるとこのをまとめて買おうかなって。
もういいんじゃない、アメリカ行っちゃう前に、ケッコン…できるかな、とか一瞬よぎるけど。
いやまだだな、ふつーにまだでしょ。って。
こんなの、まだなんの説得力もない。
もっと持続性とか… そういうのがないと。
だめだおれほんと… 気を緩めるとふわふわしそうになるし、急ぎそうになる。
まだ高校卒業する前、穂波が留守の時に心さんとシゲさんと会った。
話を、しときたくて。 なんていうか… 一緒に暮らす、わけだし。
おれだし心さんだしシゲさんだし。
そんな改まった感じじゃないけど、一回会いたいって言ったら
ランチでも一緒にどう?って言ってもらって、一緒にご飯食べに行った。
話そうと思ってたのは、なんだろ。
おれまだ子供だし。
稼いだって言ってもまだ、ゲームで優勝しただけだし。
なんか… そんな状態で、手にしたお金で浮かれて同棲申し出たとか、
そういうんじゃないって… 伝えておきたいっていうか… よくわかんないけど、
伝えとかなきゃって思ってて。
だから、ちょっと先までのイメージ?プラン?とかを話した。
そしたら、うん、わかってたし何も心配してないから。って言われて。
「でもこうして、ちゃんと話にくる辺り好感度爆上げ」
とか、変なこと言ってた。