第8章 そういえば
でも今ではけろっと、なんの湿り気もなく、前を見てる。前に進んでる。
おれもおれですることあるし。
やっぱおれたち、サイキョーかもって思う。
『あ、研磨くん、』
そう言って、忘れ物をした、みたいに自然に、
何でもないことのようにおれの頬にキスを落として。
それから、
『…んふ、京治くんほんとにここにいてくれたんだね。ありがとう』
穂波の隣から動かずにいたらしい赤葦とまた、手を繋いだっぽい。
いつまでも見てられるね、とか言って。
ほんとに結構いつまでも、見てた。
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『京治くん、いい匂いでもするのかな』
「…? あ、蛍? 匂いで集まるの?」
『ううん、きっとそういうわけじゃないんだけど、
なんか… なんかそのくらいいっぱい止まってなぁって』
少し移動したりしながら蛍をしばらく見て、
それから今はゆっくり歩いて駐車場に向かってる。
赤葦には本当にやたら、蛍が止まった。
髪に、肩に、胸に。
なんか、ちょっと笑えて、でもちょっと慣れるくらい止まってた。
「俺や月島が、穂波ちゃんに吸い寄せられるのも、匂いなのかな」
『へっ』
「…笑」
「いや違うな、匂いもあるかもしれないけど、それだけじゃないや」
赤葦は何の含みもなく、何の駆け引き的なものもなく、
ただ思ったことが口に出た、みたいな感じで言うけど。
結構すごいことを言ってるし、穂波はあたふたしてる。
でも、赤葦はその様子を別段気にするでもなく考え続けるから、
穂波も、すこし落ち着きを取り戻してく。
…こうやって、それぞれの関係性を見るのっておもしろいなって思う。
月島も赤葦も、 …おれも、穂波に引き寄せられたけど。
そこに起こる化学変化みたいなのは三者三様で。
当たり前だけど、おもしろいな、って思う。