第8章 そういえば
ー研磨sideー
「…夏は夜。やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる……」
おれらの前を蛍が飛んで横切って。
赤葦が、枕草子を口ずさむ。
『「…… また、 ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし」』
途中から、穂波も一緒に。
また、 ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。 …か。今の感じか。
…たしかに、趣深いな、とは思う。
でもそれはおれにとっては、穂波といるからってのが大きい気もする。
穂波はきっと、おれがいなくても、そもそもおれと出会ってなくても、
世界にある、地球にあるこういうことに穂波はいちいち、喜んでると思う。
「今、月は…」
『欠けてるとこだよ』
「蛍にちょうどいいね」
『ね、清少納言の言う通りだね』
「…だね」
おれと指を絡めながら、穂波は赤葦とくすくす笑いながら、
何かを共有している。
そこに嫉妬も、妬みもない。
ただただ、穂波を感じてる。
すきだな、って思う。
何度でも。
・
・
・
「…うわ」
「すごいね」
『…綺麗』
蛍のいるとこについて。
ただ、ただ、 わぁ とか あ、 とか。
それか息を呑んだりしながら、その幻想的な光を眺める。
すぐそばをゆらゆらと飛んで行ったり。
とにかく、この…… ゆったりした感じが儚くて綺麗だ。
点滅も、飛び方もいそがしくない。
ゆったり、してる。
『…あ……』
「…いいよ、俺ここにいるから」
穂波の声に応えるように、穂波を諭すように、赤葦が言った。