第8章 そういえば
ー研磨sideー
赤葦がすごい、質問してくるんだけど。
別に、めんどくさくはない。
ありがちな、いちいち繰り出されるオーバーなリアクションとかないから。
そうこうしてたらそばが運ばれてきた。
せいろに何をセットにするか自分で選ぶ、せいろセット。
穂波は天ぷらとミニおでん。つゆをくるみ汁に変更。
赤葦は天ぷらと炊き込みご飯。
おれは天ぷらと小鉢みたいなの3点盛り。
「…あ、うま」
「おいしいな」
『…ん〜♡』
穂波のくるみ汁とおれのつゆ交換したり、
おでんと盛り合わせの蕎麦豆腐一口ずつ食べさせたりしてふつーに食べ進めていく。
「…2人を見てると」
おれらよりは食べるペース早いけど、
そんな、早すぎることはない赤葦が箸を一旦おいて何か言う。
「どうしてこうも満たされるのだろうか。
なかなかこの感情は小説を読んでても出てこない」
「…赤葦は小説に答えを求めてるの?」
「…いや、そういうわけではないんだけど。
恋自体初めてだし、別段相談する相手もいないし…少し黒尾さんには話したことあるけれど、
やはり本の中で学ぶこととか、言葉にされることですっと腑に落ちるものは俺にとって大きくて」
「ふーん…」
ほんと、本が好きなんだな。
「いきなりワールドグランプリ優勝して、周りが変わったりとかしない?
家族とか音駒の友達とかではない、周りみたいなもの」
「…んー そんなにないよ。本名じゃないし。
でも、ハンドルネーム頭文字だからかな、なんかバレて、言われた」
「なんか言われた?」
「…名前書くときに、チョット。 それがイヤだった」
「そうなんだ。でもまぁ…」
「うん。今更なんだよね… だからせめて顔は出さない。 んだけど……」
「あぁ」
それも、やや、今更なんだよね。SNSってこわい。
でもまぁ、大学、あんまそういう感じの人いないし、
通い始めてできたおれの名前知ってる少ない知り合いはそんな感じじゃないし。
まぁ、ぼちぼち。
そんなみんなが気にするジャンルでもないし。
気にしすぎることもないかな、とかはチョット思う。