第3章 くじら
ー穂波sideー
「お疲れさまです」
のんちゃんと夜の仕込みをしてると、蛍くんの声。
『わぁ!蛍くんだ!蛍くーん!』
「…あぁ、はい。あの、ここで食べても良いですか?」
『え、あ、うん。もちろん。
今ね、大量の鯵があるからちょっとにおうかもしれないけど』
「あぁ、確かに。 でも、大丈夫なんで、ここで食べます」
『うん! えっと、のんちゃんと蛍くんはもうGWの合宿で会ってるもんね?』
「あっ はい。月島さんですよね」
「あ、うん。月島です。阿部さんで?」
「あ、そうです。 えっと穂波先輩、私あっちで続きやっても良いですか?」
『え?なんで?あ、蛍くんの目の前でこんなにってこと?』
「…えっと、月島さんはそれは気にしていなそうなので、そういうわけでもないですけど…
でもそうですね、はい。 もし、それでよければそうしようかな、って」
『そっかぁ… のんちゃんと仕込み…』
「夕飯前にがっつり教えてもらいますし、これも仕込みですし!
それに、一緒に調理室でそれぞれの仕込みをしていればそれは一緒に仕込みなのでは…?」
『あぁ、うん、そうだね。確かに』
「それに衣をつけていく作業は短調作業ですし、
ちょこちょこと穂波さんがしていることを見てようと思います」
『うん、ありがとう。なんだかのんちゃんは本当に… かわいい♡』
「えっ なななんでっ 今、そんなことっ」
『ふふっ じゃあ、お願いします』
隣りの作業台にいろいろを一緒に移動させて。
さて、と。
「なんか、すみません。僕が来たから、手止めさせちゃって」
『ん?のんちゃんもそうしたかったみたいだから… ってなんて答えていいかわかんない』
「…笑 でも、僕はありがたいですよ」
『あ、やっぱそうだよね、量も量だし』
「いえ、それは僕がどうこういうことじゃないでしょ。
仕込みしてるところにわざわざ僕が来たんだから」
『…?』
「…笑 なんでそういうとこ、ほんとにこんなに鈍いんですかね」
…?
「それがまた、かわいいんですけど」
いたずらな顔で、蛍くんが言う。
電話で何度もからかうように、
反応を楽しむように言われたけど、
やっぱり表情とか、この同じ空間で、っていうのは全然威力が違うな…