第8章 そういえば
ー赤葦sideー
穂波ちゃんの運転する隣に座って秩父まで。
1時間半、くらいのドライブになるのか。
『蛍がね、大体19時から21時くらいまでが良い感じなんだって。電話で聞いたんだけど』
「うん。今、17時前だから…」
『ね、どこかで夕飯食べてそれから行くのはどうかなぁって』
「うん、それでいいと思う。 な?」
後ろを振り向くと孤爪は寝ていた。
まだ車が出て10分も経ってないのだけど、と多少驚きつつ、
綺麗な顔で寝るものだ、と少々見惚れてしまった。
『……研磨くん、寝てる?』
「…あ、うん。 寝てるね、寝付きいいんだ」
ちょっと意外な、一面なような。
どこでも寝そうな気もするし。
いや…心地の良いところならどこでも寝れる、といった感じか。
やはり孤爪は猫っぽい。
ライオンや虎ではなく、猫。
『…寝付きはいいみたい。よく眠るの。かわいい』
前を見て運転しながらそう話す穂波ちゃんの表情は、とても可愛らしくて。
けれどどこか、母性…というのだろうか、包容力を感じるもので、
それはとても、綺麗なものだと、思った。
孤爪は大学に、ゲームに忙しくしているのだろう。
俺の読んだ記事では、名前は伏せられていた。
“ 新進気鋭の新人アマチュアゲーマー、ワールドグランプリ堂々優勝!賞金一億一千万獲得!
大学一年生である彼の元には国内外のプロチームからオファーが続々と……”
そんな感じで続いていくような、まぁ、書かれている対象が知り合いということを除いては、
よくある、ネットニュースの記事だった。
大金を手にしても手にせずとも、
さして風貌も人柄も変わらず。
相変わらず肩の力の抜けた、孤爪の空気感そのままであることに、
口にはしなかったが、さっき、玄関の前であったときに妙に、嬉しさを覚えた。
変わることも大事だが、
変わらないことになぜこうも人は、救われるような気持ちになるのだろうか。
「運転、慣れてるね。結構乗ってるの?」
『こっちにお店の手伝いに来たら、一度は運転してる。
でもまだ免許取って1ヶ月も経ってないから…そんなにだよ。
わたしの運転で寝てる研磨くんに驚いてる』