第8章 そういえば
ー赤葦sideー
「…思ったことを真っ直ぐ伝えてくれる恋人さん、素敵ですね。
話しかけておいてなんですが… どうぞお熱いうちにおめしあがりください♪」
店員の女性はそういうと、ささっと持ち場に戻っていった。
「…恋人」
『………』
「側から見たら、俺らは恋人同士に見えるのかな?」
『ど、どうだろう… でも、お店入ってくるときも手繋いでたから…うん…そうかもしれない…』
自分の顔がかぁーと熱くなっていくのが分かった。
『…ロールキャベツ美味しそうだね。コロッケも。
洋食屋さんってなんか、なんなんだろうねぇ、このわくわく感』
「…そうだね、食べようか」
お互いに今読んでいる本の中で、
作品は違えど洋食屋のシーンが登場してふと食べたくなった、という
そんなところが一致して洋食屋にくることになった。
たしかに穂波ちゃんといるとこういうことが普通に起きるな、と思った。
孤爪の言うところの “なんか似てる” はこういうことなのだろうか。
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会計を済ませて店、というかビルの出口までいくと、
しとしとと冷たい雨がが降り始めていて。
『あ、雨降ってるね。でもそんな、さすほどでもないか。
…でも、行き先は決めといた方がいっかぁ』
俺としては普通にもう傘をさそうかな、という降り具合だったのだけど。
穂波ちゃんは、雨をうっとりと見つめながらそんなことを呟いた。
「丸ビルにでも行く?通りを歩くのも良いかなと思ってたけど、雨に当たると冷えちゃうから」
『うん、それも良いね。雨はいいけど靴濡れちゃうとね、寒いもんね。
この後もゆっくりした気分で過ごしたいし、そうしよっか』
丸ビルへは地下道を通っていけばいいか、と思ったタイミングで、
穂波ちゃんは雨の中傘も刺さずに躊躇なく一歩二歩と足を踏み出した。