第8章 そういえば
ー穂波sideー
今日は久しぶりに京治くんに会う。
練馬にあるわたしの実家で待ち合わせ。
家にある、ラングラーを借りて…
わたしの運転で… 少し遠出をする。
京治くんに会うのは、2月の終わりに丸の内の書店へ一緒に行って以来。
思いの外、日が空いた。
──「経営学とかの方が良さそうなのに、って孤爪には言われたよ」
書店でそれぞれゆっくりと本を見て。
とりあえずこれからまだ移動というか、ぷらぷらするし
わたしは1冊、京治くんは2冊ほど購入して同じビルの中にあるレストランで
京治くんが大学の専攻の話をしてくれた。
わたしもそういうとこがあるけど、研磨くんも誰とこんな話をした、って、
何でもかんでも伝えるタイプでは全くないから。
こうして知らないことがひょいっと他の人から聞けるのは楽しい。
『…ふふ、研磨くんの視点があるんだろうね』
「あぁ… 書店業界、出版業界はこれからどんどん大変になってくだろうし。
経営とかそういう数字系強い方がよくない?なんなら工学とかさ。
本なんて結局いろんなジャンルを取り扱うわけだし、特化された知識があるのも良いと思うけど。
赤葦ベンキョーできるんだし。 って」
『…京治くん』
京治くんが研磨くんの口調を真似するのは初めて聞いて。
似てはいないけど似てなくもなくて、
でも似てなくはないんだけどやっぱ似てなくって…
京治くんのスマートさの中にある不器用さを全面に感じてきゅんとした。
そして、研磨くんがかなり、真剣に?京治くんのことを考えて話してることにも。
「…?」
『ううん、なんでもない。続けて?
研磨くんの視点は理解できるけど、そのためだけに行くわけじゃないもんね。
京治くんは、そもそも本が大好きなんだし。文学部の何科、まで決まってるの?』
「…あぁ、それもね」
京治くんはどこか困ったように、でもどこか可笑しそうに、
それでいて、やっぱり冷静な様子で話し始める。
「日本語日本文学かな、と思ってる。
英文学も惹かれるけど、やっぱり文芸部門の編集者として、作家さんと関わっていきたいし」
『うんうん』
「でもそれを言ったら孤爪がさ……」
京治くんの顔に、困惑の色が濃ゆく浮かぶ。